黄色い花

 

忍は

目の前の壱嶋を

不思議な感覚で見惚れた。

 

 

 

会いたかった人が

側に居る・・・

 

 

 

優しく微笑むのは

幻なのか・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕に触れると

その感触と温もりに

忍は

トクンと鼓動が高鳴った・・・

 

 

 

 

 

「・・・どうした?忍・・・・」

 

 

絡める腕を解かれ

先ほどより濃厚に

抱き締められる・・・

 

 

 

触れる壱嶋の熱が

忍に流れ込み

蕩けるように

力が抜ける・・・・

 

 

 

 

全てに宿る

妖しい灯が揺らめき出す・・・

 

 

 

 

 

今まで感じ得なかった感覚が

呼び覚まされる

 

 

 

 

 

 

「壱嶋さん・・・・」

 

 

 

 

『愛する』

ことの意味を

教えてくれた人・・・

 

 

 

 

 

 

己の過去の罪を

悟らせてくれた人・・・

 

 

 

 

そして

これから先を

指し示してくれる人・・・

 

 

 

 

忍は

暮らしの変化に

戸惑った・・・

 

 

 

 

立派な家に

温かい食事

清潔な布団

そして

壱嶋と共に過ごす生活

 

 

 

 

過去のその日暮らしが嘘のようだった。

 

 

 

 

 

 

壱嶋と愛し合う日々で

忍の心の奥底に隠されたものが

蠢き出す・・・

 

 

忍は

それに気が付くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「壱嶋さんって料理上手なんだね」

 

台所で

お皿に盛られた煮物をつまみ食いした。

 

 

その手をパチっと叩かれ

へへっと笑った。

 

 

「それは、私じゃない

・・豆丸が作ったものだ」

 

 

「豆ちゃん?・・・・」

 

 

「忍の事、心配していた・・・」

 

 

「あ・・・うん・・・・」

 

 

 

 

豆丸は

いつも

良い方向へと言葉を尽くしてくれた。

 

 

 

でも

心配顔に応えることも

持て余した心を

告げることも出来なかった。

 

 

 

 

一人で生きるうちに

人に頼る術を忘れていた。

 

 

 

忍は

壱嶋への想いに

逃げる事しか

浮かばなかった。

 

 

 

 

何故逃げ出したのか

今では

その理由すら曖昧になっている・・・

 

 

 

 

 

「豆ちゃんに謝らなきゃ・・・・」

 

そうつぶやくと

 

 

「忍くん!!」

 

 

と、目の前に

豆丸が立っていた。

 

 

「あ!豆ちゃん!」

 

 

「帰って来ったて聞いて・・・忍・・く・・ん・・・・」

 

 

豆丸は

大粒な涙を

ポロポロと零した・・

 

 

 

「豆ちゃん・・・・ごめん・・・本当に・・・ごめん

俺、やっと戻って来たよ」

 

 

近付き

豆丸の濡れる頬を

ゴシゴシと手で拭った。

 

 

「心配してたんだよ・・・・

壱嶋さんだって、ずっと捜したんだよ・・・」

 

 

「うん・・・豆ちゃん・・・

・・・・・心配掛けた・・」

 

 

 

横で穏やかな表情の壱嶋に

忍は

視線を向けた。

 

 

 

 

「あぁ・・たくさん捜した・・・

材木屋から桜ん坊茶屋まで・・・」

 

 

「え!ほんと?!・・・・・」

 

忍は

悪戯が見つかった子供のように

肩を窄めた。

 

 

 

「・・・確か、『しの』だったな・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・それも知ってるんだ・・・・」

 

 

 

忍は

あらぬ方向に視線を泳がせた。

 

 

「今度は、私の小言を聞いてもらう番だな・・」

 

 

 

「あは・・・冗談に聞こえないよ・・・」

 

 

「冗談じゃない・・・・一晩は、眠れないと思え」

 

 

「壱嶋さんの意地悪・・・」

 

 

 

 

 

頬を膨らませ

拗ねる姿は

子供のようだった。

 

 

 

 

しかし

肌を重ねる夜を幾度も過ごすうちに

忍は

少しづつ変わっていくようだった・・・

 

 

 

大人の眼差しで

誘う視線

 

 

 

彷徨う手は

壱嶋を放さなかった・・・

 

 

 

昔の傷口に触れると

切なげな瞳で

綺麗に微笑む・・・

 

 

 

 

決してその訳を話すことは無かった・・

 

 

 

 

 

子供と大人が綯交ぜになった

均衡の取れない忍・・・

 

 

 

 

 

 

幸せな日々とは

裏腹に

何かが起きそうな予感に

壱嶋の心に

不安が過ぎった・・・

 

 

 

 

「お前は、本当は幾つなんだ?」

 

 

 

そう尋ねた時

忍は

きょとんとした。

 

 

 

「何故そんな事聞くの?」

 

「あ、いや・・・」

 

 

 

空虚のような瞳だった・・・

 

 

 

 

忍の過去は

闇の中

 

 

 

 

探ろうとすると

煙に巻く・・・

 

 

 

 

知られたくないのだろうか・・・

それとも

覚えてないのだろうか・・・

 

 

 

忍を抱けば抱くほど

壱嶋は

疑問が増えていった・・・

 

 

 

 

 

豆丸は

毎日のように

壱嶋の家に足を運んだ。

 

忍に

掃除の仕方や

米のとぎ方

簡単な料理なども教えた。

 

 

「忍くん、壱嶋さんにちゃんと食べさせなきゃだめだよ」

 

 

「これ、毎日豆ちゃんしてるの?」

 

 

「当たり前っす・・・一馬さんが健康で酒造りが出来るように

俺は

毎日美味しいものを作るし

部屋も綺麗にしてるっす」

 

 

 

「・・ホコリで死んだりしないよね」

 

「何言ってるっすか!嫁の心得が分かってないっす!!」

 

 

 

「うえ~~~、分かったよ」

 

 

 

その時、

玄関から声がした。

 

 

「あ、誰か来た」

 

 

バタバタと駆け出すと

そこには

神崎が立っていた。

 

 

忍は

ハッとして

身構えた。

 

「あ、あの・・・・」

 

 

神崎に

お金を返そうとして

出来なかった・・・

 

 

 

しかし

忍の前で神崎は

深く頭を下げた。

 

 

「すまなかった・・・・貴殿に無礼を働いた事を

謝罪する」

 

 

「え・・・あ、あのお金・・・」

 

 

「壱嶋中佐から返された・・・」

 

 

「・・・・」

 

 

源真が壱嶋に渡したあのお金は

ちゃんと神崎に戻っていたことを

忍は

初めて知った。

 

 

 

「俺こそ・・・約束守れなくてごめんなさい・・

でも・・・俺・・・」

 

 

 

「その話は、無かったことに・・・・

これは、詫びの印だ・・受け取ってくれ」

 

 

渡されたのは

また分厚い封筒だった。

 

 

「あ・・受け取れない!」

 

 

「お金じゃない・・・・」

 

 

神崎は

苦笑した。

 

 

中をそっと開けるとそれは本だった。

 

 

 

『嫁の心得』

 

 

 

「な・・・なに・・・これ・・・」

 

 

 

 

「壱嶋中佐の伴侶として、やるべきことが書かれてる

きっと為になるはずだ」

 

 

「・・・・あ、ありがとう」

 

 

鼻をポリポリと掻いていると

神崎は

何か言いたそうな顔をして

その場を去って行った・・・

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

「忍くん・・・・あの人、軍の人だよね」

 

 

「うん・・・・」

 

きっとまだ自分は認められていない。

 

 

言葉無き瞳が

忍を

拒絶しているように思えた。

 

 

「うわ~!『嫁の心得』だって!」

 

 

( ̄m ̄〃)ぷぷっ!っと豆丸が笑った。

 

「皆して・・・嫁嫁って・・・・俺は、嫁じゃないよ」

 

 

 

「へえ?じゃ、何?壱嶋さんの何?」

 

 

豆丸は

忍に疑問を投げ掛けた。

 

 

「知らない・・・分からないよ」

 

 

 

「忍くんは、お子ちゃまだからなぁ~

まだ、ヒヨコっす」

 

 

「豆ちゃん・・・・」

 

 

忍は

豆丸の両の頬を

左右に引っ張った。

 

 

 

 

ある日

壱嶋が帰ると

忍は

縁側に座っていた。

 

 

その横顔は

大人びて見えた・・・

 

 

 

 

「忍・・・ここに居たのか・・・

どうした?」

 

 

木の枝を持ち

地面に何かを書いていた。

 

 

「ん?何を書いてる?」

 

 

 

「壱嶋さん・・・・俺、22だった」

 

 

 

「?何の話だ?」

 

 

「俺の歳」

 

 

「!!!」

 

 

縁側に座り

今まで見たこともない笑みは

月明りに影を落とし

綺麗だった・・・

 

 

 

 

 

壱嶋は

忍を見つめたまま

動けなかった・・・

 

つづく・・・・・

 

 

こんにちは

 

ぺこ <(_ _)>

 

 

長らくお待たせいたしました。

知ってる人は、知ってると思いますが、長きに渡って一緒に働いた同僚が、体調不良により突然辞めてしまい

二週間ほど休みなし、先の見えない不安にすっかり妄想出来ない状態が続きました。

妄想って、時間と少しだけの心の余裕が必要なのだと感じました。

今は、なんとか週一の休みを確保、それと同時に週一の長期勤務がありますが・・・

 

 

この状態にならなかったら、ただの壱嶋と忍のラブラブな話になっていました。

こんな話は、つまらない・・・毎日一分でもPCに向かいました。

消しては、書き、書いては、消し・・・なかなか話は、進まないまま、苦悩の日々が続きました。

 

 

ほんの少しだけ、先に明るさが見え、やっと書き出すことが出来ました。

そして、妄想脳が戻ると、そこには、やはり闇深い話が待っておりました。

私らしい・・・と、自分で感じております。

どうぞ、そんな「大正ロマン」の世界をお楽しみください。

 

 

転んでもタダでは起きないmachiです(笑)

次回ものんびり更新~よろしく

 

 

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪