ハドソン研究所研究員 長尾 賢 中国軍艦が尖閣に入ったら台湾に親善訪問しよう 2018.4.9  を引用

 

今年(2018年)1月、中国の潜水艦が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入した。海上保安庁では対応不可能な相手だ。中国は以前よりも強い態度に出ている。いずれ尖閣諸島の日本の領海に中国の潜水艦が入るだろう。どうしたらいいだろうか。

 

 色々な案があると思うが、まず頭に浮かぶのは侵入した中国の軍艦を力ずくで追い出すことや、沈めてしまうことだ。しかし、そうした対応は死傷者を出すかもしれないし、もっとエスカレートして戦争になることが懸念されるから、かなり覚悟のいる決断になる。 もちろん本当に領土を取られてしまいそうな時は戦わなくてはならないが、戦う前にもっといいアイデアはないか。

 

 そこで次なるアイデアが、中国の軍艦が尖閣諸島の領海に侵入した時に、日本も中国の「領海」に侵入する方法である。例えば、南シナ海で米国が行う「航行の自由作戦」に参加するのは一案だ。中国が建設を進める人工島から12海里の「領海」を航行するのである。しかし、もっと近くでできる別の案もある。台湾だ。日本の艦艇を台湾に親善訪問させてみるのはどうだろうか。

 

 親善訪問は平和的で友好的な手段だ。台湾の許可を取って訪問し、一緒にスポーツをしたり音楽を聴いたり、友好的な交流イベントを行うのである。でも単に友好的なだけではなく政治的な手段になる。中国は台湾の領有権を主張している。今の台湾の蔡英文政権は、中国の言うことを聞かないから、中国は蔡英文政権の孤立化を図っている。だから、日本の艦艇が親善訪問したら、中国はすごく不愉快だろう。中国の軍艦が日本の領海に入るのも、日本にとっては不愉快だから、ちょうどいい。

 

 なぜこの話が「日印『同盟』時代」なのかというと、このアイデアはインドがよく使うやり方を適応したものだからだ。一般的には「比例的な報復(proportional response)」とよばれる方法で、1発殴られたら1発だけ返す、という方法である。一時期流行った「倍返し」とは対局の概念だ。

 

地図には地図で対応

 

 インドが、1965年の第2次印パ戦争で採用した方法がこれに当たる。パキスタン軍がカシミールに侵入してインドの領土を奪った時に、インドはカシミールより南のパンジャブ州でパキスタン側に侵入して領土を奪い、停戦交渉時の交換を狙い、事実上それは実現した。

 

 2012年に起きた事例も同様のタイプである。中国は新しいパスポートに地図をつけた。インドと中国の両方が領有権を主張している地域が、中国領として書かれている地図だ。そのパスポートを持った中国人がインドに入国しようとすると、インドの入国係官は入国スタンプを押すことになる。つまり中国の主張をインドが公印で認めたことになる、というわけだ。なんともくだらない話に聞こえるから、インドとしては、本気で怒るのもバカバカしいが、無視もできない。いやらしいやり方である。そこでインドはどうしたか。

 

 インドは新しい入国スタンプを作ったのである。そのパスポートに押すためのスタンプである。そのスタンプは地図になっており、インドと中国の両方が主張する領土の部分がインド領になっているのである。まさにインドは比例的な報復をしたのである。

 

 このようなやり方をしても、中国が大人しくなるわけではない。インドもそれは十分承知している。しかし、何もしないで我慢ばかりし、煮えたぎる思いを溜めて、最後に爆発して戦争になってしまうより健康的な方法だ。

 

 1947年に独立して以来、実に30回以上も実戦を経験し、中国とパキスタンという問題と長く付き合ってきたインドだからこその、駆け引きの技術なのである。日印「同盟」時代は、日印が友好国として学び合う時代でもある。日本もインドの経験に基づく知恵を参考にしてもいいのではないだろうか。

 

という偶然遭遇した記事に納得する。