雪がふりつもる寒い夜、街灯の足元に一人の青年が倒れるように座り込みました。汚れたコートは薄っぺらく、とても寒そうにしていました。
 青年の財布はからっぽで食べるものもないのでした。

 たったひとつ、手にぶら下げていたギターケースから大事そうにギターを取り出して、かじかむ指をこすりあわせ温めて弾きはじめました。

 どれだけたくさん練習したのでしょう。ギターは青年の体の一部のように馴染んで、青年の声のように歌いました。

 青年は何曲も何曲も弾きつづけました。誰かに語りかけるようにギターは歌いました。
 けれども道には青年の他に誰もいないのでした。ただ、青年の上に降りかかる雪があるだけなのでした。

 街灯が少しだけ明るくなりました。青年はまるで舞台の上でスポットライトに照らされたように見えるのでした。
 その光の中で青年とギターは輝いていました。その輝きは誰も見るものがなくとも、いいえ、誰も見るものがいないからこそ真に美しいのでした。

 ふっ、と街灯の明かりが消えました。青年はギターを弾く手を止めて、街灯を見上げました。
 雪明かりのなか、青年の瞳はきらりきらりと輝きました。自分だけのスポットライトを目に宿したようでした。

 青年はギターを大事にケースにしまうと、立ち上がり歩いていきました。雪の上にしっかりと、まっすぐな足跡をきざんでいきました。