「あけめやも」
ふと頭に浮かんだ。
「あけめやも」
いったいなんだったか、まったく思い出せない。
「あけめやも」
古文で習った古語だったか、どこかの国の挨拶だったか。
「あけめやも」
何かの商品名だったか、儀式の名前だったか。
「あけめやも」
誰かのギャグだったか、それとも宇宙からのメッセー……
「ねえ、さっきから何をぶつぶつ言ってるの?」
「なあ、『あけめやも』って何か知ってる?」
「あけ? え、なに」
「『あけめやも』。とつぜん、思い出したんだ。なんだったかな」
「さあ、知らないなあ。『あけめやも』? 辞書をひいてみたら?」
「うーん、調べるのはちょっと違うんだよなあ。なんというか思い出さないと負け、みたいな」
「それじゃあ、私に聞くのも反則負けじゃない?」
「それはぎりぎりセーフ」
「なんだ、それ?」
「とにかくもう少し考えてみるよ」
「今年の悩み初めだね」
「お、なんとか初めっていう言葉、久しぶりに聞いた気がする」
「私も久々に使ったわ。急に思い出したの」
「そうだな、こういう突然思い出す現象を『あけめやも』って言うのもいいかもしれないな」
「思い出すのはもう諦めたの?」
「うん。今年の諦め初め」
「早すぎると思うけど。ま、いっか。今年もいっぱいホニャララ初めを体験していこうねー」
「ホニャララって言葉もあけめやもだ」
「本当ね」
「けっこう使えるな、あけめやも」
「なかなかいいんじゃない? あ、そうだ。『あけめやみとじめやみ』っていう小説があったわ」
「そうなの?」
その後、話はどんどんそれて、あけめやもについて考えるのを忘れてしまった。きっとまた数年後にあけめやもすることだろう。私の人生とはそういうものだ。