岩手に家族旅行に行くことになって、みんな口々に行きたいところをあげていった。

「ホヤが食べたい」

 とパパが言う。

「宮沢賢治記念館に行きたい」

 とママが言う。

「わんこそばに行きたい!」

 と翔が高々と手をあげて主張した。

「わんこそばか、いいなぁ」

 とパパ。

「パパは食べることばっかりね」

 とママ。

「ぜったい、行く!」

 と翔。

 全会一致で採択され、岩手でわんこそばに行くことに決まった。


 ママの宮沢賢治記念館は午前中に、パパのホヤは晩御飯に行くことになって、翔のわんこそばはお昼に行くことになった。

 翔はわんこそばが楽しみで楽しみで、退屈だろうなぁと思っていた記念館でもにこにこ顔でいた。

 腹ペコでわんこそば屋に入ると、翔はきょろきょろと店内を見回した。

「あれえ、わんこは?」

「みんな食べてるだろ、わんこそば」

「そうじゃなくて、わんこだよ」

「翔、あなたもしかして、犬がいるそば屋さんだと思ったの?」

「違うの?」

 パパとママはお腹をかかえて笑った。翔は恥ずかしいやら腹がたつやら、真っ赤な顔でむくれた。



「でも、新しくていいかもしれないわね、わんこそば」

「そうだな、猫カフェみたいな感じでな」

「もういいよ! わんこそばは!」

 翔はそう言いながらも、家族で一番そばを食べたげな。


どっとはらい。