マリの後ろを通りすぎながら佐藤と清川がくすくす笑った。マリは屈辱感を噛み締めて、じっとうつむいていることしかできない。
 いじめじゃない。いやがらせでもない。彼女たちはただマリの後ろで笑うだけだ。

 笑われているのがマリだということがはっきり分かるように周到にタイミングを計ったかのようなくすくす笑い。クラス替えのあとすぐから始まった。
「なんで笑うの?」
 そう聞けばいいだけなのに、マリは口を開くことができない。聞けばなにか恐ろしいことが起こるような気がして。

 笑われるたび、マリの口はどんどん重くなった。背中はどんどん丸まった。机に顔がつきそうなほど前屈みになったマリの後ろを佐藤と清川が通る。くすくす、くすくす、くすくすくすくす。

 背中にくすくす笑いが染み付いて、マリの顔には笑いが浮かばなくなった。
 くすくす、くすくすくす。
 今日もマリは机にすがりつくようにして背中の重みに耐えている。ただ、耐えている。