奈央はふと気づいた。ここ一ヶ月、家と職場とコンビニの往復しかしていないことに。正月も仕事の忙しさにかまけて実家にすら帰らなかった。

 一月三日、久々の休日。どこかに出掛けようかと思ったが、明日からまた続いていく仕事のことを考えると家で体を休めたいとしか思わない。
 それに出掛けるといって、どこに行くあてもなかった。家、仕事、コンビニ、なんとせまい世界だろう。世間からどんどん遠ざかり、『しごとにんげん』というオバケにでもなりそうだと思って、なんだか悲しくなった。

 暇をもて余してテレビをつけても、奈央にとってはどうでも良い情報が垂れ流されてくるだけだった。奈央は布団にくるまって、ぼうっとしていた。

 ふと目が覚めた時には午後四時を過ぎていた。寝正月という言葉をぼんやりと頭の中で転がした。その言葉はなんだか優雅で、奈央の一日とはかけ離れている気がした。

 けれどどんなイメージを持っていようと、正月をつぶして一日寝た事実は、まさしく寝正月に違いなく、奈央は少しだけ世間に追い付いたように感じた。

 もそもそと布団から出て実家の母に「おめでとう」と電話をかけて、コンビニに栗きんとんを買いに出かけた。