「おおあたりー!」
 カランカランと盛大に鐘をならしておっさんが叫んだ。
「一等賞品は天国へのチケットでーす!」
 バーコード頭のその福引所のおっさんは、白いスモックに白い羽根、頭の上に光るわっかを乗せている。天使のつもりなのかもしれない。
「さあ、これが賞品です」
 手渡された紙切れにはスーパーのポップのような書体で「天国行き」とだけ書いてある。
「どうします、すぐ行きますか?」
 おっさんは、ぜひとも天国へ送り出したいらしい。鼻息が荒くなっている。
「これって片道チケット?」
「もちろんです!」
 チケットをじっと見つめて自分の人生を振り返ってみる。辛いこともあった。腹のたつこともあった。嬉しいことも楽しいこともたくさんあった。わりと良い人生だった。
 子供も手を離れた。孫の顔も見た。夢も今叶った。一度でいいから福引で一等を当てたかったのだ。
「行きます」
 おっさんは嬉しそうにチケットを受けとると、券切りでパチンと穴を開けた。
「では、どうぞ」
 おっさんはこちらに背中を向けると中腰になった。
「は?」
「遠慮なさらず、どうぞ」
「え? どうぞって、なにが?」
「負ぶさってください」
「え?」
「私の背中に」
「ん?」
「飛んでいきますから」
 おっさんは羽根をパタパタ動かした。
「いいです、やめます」
「まあ、そう言わず」
「いやです、帰ります」
 そう言った瞬間、目の前が眩しく真っ白になった。

 気づくと病院のベッドの上だった。家族が「よかった」「無事だった」と泣いていた。枕元の脈拍計が単調な音を発している。脈が続いたんだなあ。
 まだまだ生きることになった。天国に興味はあるが、あの天使の背中で旅するのはごめんこうむる。
 長寿社会になったのは、案外、あの天使のおっさんのおかげなのかもしれない。