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團伊玖磨、だんいくま
という指揮者。
作曲者。
作者。




『舌の上の散歩道』

私の文章の出発点が團伊玖磨のエッセイだ。
『ぞうさん』や『やぎさんゆうびん』で彼の名前より先に曲を知って歌っていた。
『白やぎさんからお手紙ついた』
文章の上達には文章上手の文をなぞるのが一番だ、と聞いた。
文章上手とはだれか?
なぜかその時私に与えられた答えは團伊玖磨だった。
『黒山羊さんたら読まずに食べた』
ひたすら読み、ひたすら写した。
そしてそのうまそうな描写によだれをたらした。
『しかたがないからお手紙かいた』
トナカイの肉、こんぺいとう、カツ丼。團伊玖磨はとにかく食べる。
『さっきの手紙のご用事なあに』
いかにもうまそうな。いかにも幸せな満腹。腹を満たすということの幸せを余すところなく書いてある。
太る、ということを忌避する世界など知らない食欲と口福。
『黒山羊さんからお手紙ついた』
その口福をなぞりたくて、その口福を味わいたくて東に行き、西に旅した。
『白やぎさんたら読まずに食べた』
トナカイのステーキに憧れ、北の氷の地で食べた。春の恵みを摘んで食べた。したたる夏をすすり飲んだ。秋の実りをいただき次の季節を心待にした。
『しかたがないからお手紙かいた』
今日、憧れた最後の一品、Tボーンステーキを食べた。青空、ワイン、夢の食卓。
『さっきの手紙のご用事なあに』
望む食卓には皆ついた。けれど。
『白やぎさんからお手紙ついた』
人生は続く。食卓は日々重なっていく。
『黒山羊さんたら読まずに食べた』
しかたがないからお手紙食べずにお肉を食べて。
明日も元気にがんばるか。