続いて、ホワイトストーンさんが現役時代に意識していたウマ娘はいましたか?
「そうですね・・・色々な方とレースで走ってきましたが、やはり私と同じ葦毛でスーパースターのオグリキャップさんでしょうか。私がデビューした頃には既に全国的な知名度の方でしたし、タマモクロスさんと共に葦毛のウマ娘は走らないと言う印象を払拭してくれた事、あの方の引退となってレースに私も出走しましたが、勝てなかったのは悔しかったですよ。でも、あの結果は・・・やはり感動しかなかったですね。」
なるほど。では、最後にファンの方に向けて一言お願いします。
「私が現役引退してからそれなりの月日が経つのですが、今でも私のファンと言ってくれる方が沢山いて本当に感謝しています。今後の活動についてはまだ未定ですが皆さんに良い報告が出来るように色々と動いていますので、楽しみにしていてください」
これでインタビューは以上になります。ありがとうございました。
「こちらこそありがとうございました。久しぶりのインタビューの仕事だったので緊張していたのですが、変な回答とかしていませんでした?」
変な回答なんて無かったですよ。むしろこちらの方が何か失礼な事を言ってないか、ドキドキしながら質問してました。
「そうですか…もしこの後のお時間が大丈夫でしたら、反省会を開きませんか?私からも色々と聞きたい事がありまして」
はい、こちらこそお願いします。
「ありがとうございます。ではまず、私の質問への回答について何か引っ掛かった事、違和感を感じた事などはありませんでしたか?」
いえ。先ほども言った通り回答に変な部分は無かったですし、寧ろ他の方に比べてスムーズにインタビューが進んだ印象がありますね。
「そうですよね。では次に、私が現役時代に意識していたウマ娘は誰ですか?」
…最後から2番目で回答して頂きましたが、オグリキャップさんですよね?
「はい、建前上はそうです」
…建前上、ですか?
「次の質問です。私にとって、現役時代走ってきたレースの中で思い出に残っているレースが二つあります。それはどのレースのことでしょうか?」
えー、こちらは日本ダービーと菊花賞でしたね。
「その理由は?」
先ほどホワイトストーンさんに行ったインタビュー内で似た質問をさせていただきましたが、日本ダービーは前評判では12番人気だったにも関わらず3着。菊花賞ではメジロマックイーンさんにこそ届かなかったものの2着と、生涯一度しか走れない大レースで充分健闘したと
「全く違います。私の思い出に残っているレースは日本ダービーでも菊花賞でもありません」
…それでは先ほどまでの回答は嘘を
「最後の質問です。私はインタビューで本当の事を殆ど語っていません。それは何故だと思いますか?
因みに答えは『皆さんが私に求めている回答をしていた』からです。」
…皆さんがホワイトストーンさんに求める回答をしているから
「大正解です。正解のご褒美として、貴方の方から私に質問して来て良いですよ。例えば、私が現役時代に意識していたウマ娘は誰か。と言う質問はどうですか?」
…ホワイトストーンさんが現役時代に憧れていたウマ娘はどなたですか?
「いません。最初の頃はオグリキャップさんに憧れていた、自分もオグリキャップさんみたいになりたいと思ってはいました。しかし、次第に誰かへの憧れと言う感情が薄れていき、最終的には他のウマ娘への興味関心はなくなりました。
次の質問は、私が現役時代走ってきたレースの中で思い出に残っている二つのレースについて聞くのはどうでしょうか?」
ホワ
「G2だった頃の大阪杯、そして同じG2のアメリカンジョッキーCです。一応G2セントライト記念も勝っていますけど、あの頃の私は日本ダービー3着だった事に加えて、このレースの勝利は輝かしい未来の途中。ここから更に躍進をしていくと、向上心が強かったのでこの勝利に執着心を持たない様にしていました。その為、嬉しかったですけど他二つと比較すれば弱くなってしまうのです。
そして次は」
ホワイトストーンさんに、一体何があったのですか?
「…何が、ですか。漠然とした質問ですね」
ホワイトストーンさんは最初の頃はオグリキャップさんに憧れていたと言ってました。しかし、そこから憧れを抱かなくなった理由がある筈です。それについて教えていただけませんか?
「…分かりました。まず、貴方からのインタビューの最後に今でも私のファンがいると言いましたが、これは本当です。現役時代にどのレースで私を目当てに見に行ったとか、昔サインして貰っていまでも大切に取ってある、毎年ファンレターをくれる方もいます。そう言った方からの言葉は本当に励みになっていますし、本当に嬉しいです。
しかし、全員が私の求める応援の仕方をしてくれるとは限らないんです」
応援の仕方、ですか。
「はい。私のレース成績は32戦4勝、レースで勝利した数は決して多くありません。しかしデビューした翌年の日本ダービー、菊花賞、有馬記念やジャパンカップなどで好走していた事で私は知名度を得ました。
翌年も成績に安定性が無いものの、時に大きなレースで掲示板の上位に入る事から、私の事を『善戦ウマ娘』として応援する方が増えていきました。
勝てそうで勝てない、いつか勝てるだろう。名前をよく見かけるから覚えていた。など、色々な過程で私のファンになる人が増えていきました」
確かにホワイトストーンさんの名前を度々大きなレースで見ましたね。
「そしてファンの方が多かったのでメディアなどの取材が度々あったのですが、その度に私は『善戦ウマ娘』としてのコメントを求められました。直向きで、諦めず、諦める事をしない笑顔を絶やさないウマ娘として…そんなキャラじゃないのに。
憧れのウマ娘はいますか?いますよね、オグリと同じ芦毛だしレース経験ありますよね、だからオグリに決まっているよね?オグリだ!
君の思い出のレースはG2じゃないだろ?何度も届きそうで後一歩届かないG1の栄光に挑んだ回数を忘れたのか?その挫折の過程で何を感じた?君が負けた相手はそのレースでどんな様子だった?
君の取材は本当に楽だ。変に我を出さないから。
…アタシは、決して善戦ウマ娘と言う形で注目されたく無かった。誰よりも早い、誰よりも強いウマ娘として、誰もが憧れるウマ娘になりたかった。
でも、アタシの知らない所で作られたホワイトストーンの人物像を求められて、それを演じる事以外は許されなかった」
それは…すいませんでした。
「アンタに謝れなんて言ってない。トレーナーもだけど、アタシが欲しかったのは謝罪じゃ無い。誰もアタシの事を分かってない…本当に最悪な人しかいないわ」
…何故、その話を私に打ち明けてくれたのですか?
「…それはね、アンタに呪いをかける為」
呪いですか!?
「そう、アタシが知っている中で最大限の呪い。アンタが記者である限り一生まとわりつく、最大限の呪いを掛けるために呼び止めたの」
…どんな呪いですか?
「アタシが勝った思い出のレースは二つ。一つは一年以上経って久々の勝利だったアメリカンジョッキーC。そしてもう一つの大阪杯、このレースでの2着はオグリ世代のウマ娘だった」
この時代のオグリ世代…と言うと、殆ど引退していますよね?
「ええ。オグリキャップが引退した翌年なんてシニアと言うよりシルバー世代と言った方が正しい上に、そのウマ娘は爪を怪我して本調子では無かった。しかもその怪我も実はレース前どころか、数ヶ月前の地点から患っていたにも関わらず本人含めて周りが気付いていなかった。そこに落ち度があるものの、そのウマ娘は2着…アタシはそのウマ娘に勝利した。
ここからが本題。その2着だったウマ娘の『ダイユウサク』はどの様な道を辿って大阪杯へと辿り着き、その後はどの様な生き様だったのか。その全てを調べて来い。そして、そのウマ娘に勝った私はどれだけ凄かったのか。それを改めて思い知れしろ」
ダイユウサク…って、あの有馬記念のですか!?
「そう。あのウマ娘は…数多の運命が複雑に絡み合った末に、たった一つの奇跡を自らの実力で掴み取った凄いやつだし、あいつの事を語りたい奴も沢山いる筈だ。
にも関わらず、マスコミや深く探ろうとしない自称ウマ娘ファン共が声を大にして『あの有馬はマグレだ』と叫ぶせいで、正当な評価をされずにいる。
長い年月が経てば何時かはあのレースの凄さは理解される様になるだろうけど、それでも…あの有馬の勝利に何の意味があったのか。それを知りたいんだ…」
…分かりました。力になれるか分かりませんが、色々調べてみます。
「ありがとうございます!貴方に頼んで本当によかった!」
そうですか…ところで、何故私にダイユウサクさんの事を話したんですか?
「…何となくです」
※この事がきっかけで俺はダイユウサクの事を意識してしまう様になり、数十年に渡って彼女の事を調べ続けている。
この時のホワイトストーンはどの様にして、そして何処までダイユウサクの事を知っていたのか。それらは全て謎である。