それではインタビューを開始させていただきます。
まずタマモクロスさんとイナリワンさんは中央での活躍時期が違いましたが、お互いにどの様な印象を抱いていましたか?
「なんか滅茶苦茶ちっこいウマ娘がおるなって」
『あぁ!?タマも同じちびっ子だったじゃねぇか!それに今ではあたしの方が身長が高い』
「身長は昔も今もウチの方が上や!そんなんやからイナリは器も小さいと」
『そんなに喧嘩売りてぇなら買ってやろうじゃねぇか!火事と喧嘩は江戸の花、エセ関西のお前さんは喧嘩も走りもあたしに勝てるわけが』
「そこまで言うなら実際に走って」・・・
※二人の喧嘩は5分以上に渡って繰り広げられ、その間にインタビューは一切進まなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・こんくらいにしといたるわ」
『ふぅ・・・ふぅ・・・それはこっちのセリフでぇ』
続いての質問ですが
「いや、ちょい待ちぃや!目の前で喧嘩が繰り広げられる、それに対して何も言わずにスルーはあかんやろ!」
様々な方にインタビューを行ってきたので、こういう状況には慣れています。
『なんでぇ、普通の記者かと思ってたが色々と揉まれてきたんじゃねぇか』
そうですね。続いての質問ですが、ご自身のレースの中で・・・失礼しました。URAが開催した全てのレースの中で、一番印象に残っているレースは何でしょうか?
「なんや、わざわざ質問の内容を言い換えるなんて」
過去にインタビューを行った方の中に『自分が走ったレースの中に本当の一番があると決めつけない方が良い。自分が出場してなかった・出来なかったレースに心打たれるウマ娘もいる』と指摘されたことがありまして、そこから内容を変えるようにしていたのですが、こちらのミスで過去の質問内容を聞いてしまったので言い換えさせていただきました。
「なるほどなぁ。いや、でもそういう配慮は結構大事やで?ウチが引退後に色んなとこからインタビューを受けたけど、記者の中には『タマモクロスさんにとって一番のレースは、やはりオグリさんとの有馬記念ですよね?』って。いや、それを先に言われたらこっちはもう『はい、そうですね』と返すしかないやないか!」
『タマ、それは流石に回答の仕方が雑過ぎやしねぇか?』
「はっ、つい言うてもうた!」
タマモクロスさんはオグリキャップさんとの有馬記念ですね。では、イナリワンさんはどのレースでしょうか?
「いやっ、だからスルーはやめぇや…」
『くくっ。不甲斐ねぇボケを繰り返すタマに代わって、このイナリ様が答えてやろうじゃねぇか』
「どうせイナリも有馬やろ?」
『言うんじゃねぇ!』
※3分ほど中断
やはりお二人にとって、有馬記念は特別なレースなのですね。
『そりゃ、ウマ娘達の中で有馬の事を軽んじる様な輩なんているわけねぇだろ』
「それにウチにとっては引退レースであり、オグリとのラストラン。イナリにとっては勝った上でレコード。それぞれに物語もあったからな」
『後は、有馬に勝ってから色々なもんが変わっていきやがったからな。あそこで負けていたらアタシもこの場にいなかったかもしれねぇし、永世三強の1人なんて呼ばれなかった可能性もあったんだ。たった一勝、でもあの一勝はマジで特別よ!』
なるほど…それはダイユウサク、さんもそうだったのでしょうか。
『…おいっ、その名は』
「だっ、はっはっは!アカン、腹痛い!!よりにもよってイナリの前でその名前出す奴が現れるなんて!!
ルドルフが現役時代に有馬で出した記録を5年後にイナリが1.1秒更新してインタビューで『誰も追いつけない大記録を達成した!』言うた2年後に1.1秒更新された、ウチらも気ぃ使って触れん様にしてた話を!はっはっは!」
あっ。失礼しました。
『・・・よっしゃ、今日アタシに対して売ってくる喧嘩、この場で全部青田買いしてやろうじゃねぇか!!そもそもあんた、そんなにダイユウサクの事が気に入ってるのか!?』
はい、とても。
『おっ、おう・・・そうなのか』
「はーぁ、はーぁ・・・まっ、おふざけはここまでにしよか。で、次の質問は何や?」
先ほど有馬記念がウマ娘にとって特別。とおっしゃってましたが、実際に出走したお二人にとってどのような所が特別と感じましたか?
『有馬記念の特別な所、なぁ・・・』
「まぁウチは概ね、人々の想像通りの理由や。勝てば歴史に名を残すようなウマ娘たちに名を連ねることが出来るとか、負けたのに最高だったと言えるレースはあれだけやった・・・けど、イナリはウチの理由と全くちゃうやろ?」
『あぁ、全くちげぇな。タマにとっちゃ有馬は最後だったけど、アタシにとっちゃ道半ばでの有馬。そこでの結果が今後の評価にも繋がってきやがるが・・・ちょいと長くなるが、話させてもらうぞ?』
はい、お願いします。
※あまりにもイナリの口調が分からず話が進まないため、ここからは訛り弱めで書いていきます。完全版で滅茶苦茶修正が面倒くさいことになるところ!
『まずアタシは大井から中央に来たタイミングはタマが引退した有馬の翌年の事だった。一応前年に東京大賞典で勝っていて、大井では祭りで送り出されたもんだ。しかし全国区となった時、アタシの名は全国に全然届いてないことを自覚していた。
アタシが中央に来たのは『江戸にイナリワンあり』、それを世界中に云わせてやるっ!っつう目標があって来たんだけどよぉ…春にはオグリもクリークも怪我で療養で、人々のトゥインクルシリーズへの関心が低くなっていた時期なんだ』
「まぁ、それはしゃあないわな。オグリが目当てで応援してるっちゅうやつも結構多かったし、怪我は本人のせいには出来へん」
『そりゃあ当然だ。それに、むしろチャンスだと思った!当時の話だけど春シニアのG1ってなったら天皇賞春と宝塚記念、後はマイルの安田記念のみだった。そこで活躍すりゃ、まずアタシの存在が世間に知れ渡る。その状態で秋に復帰したオグリとかの名の知れたウマ娘の出場するレースで勝利すれば勝てば大井での宣言が叶うって訳よ』
事実、イナリワンさんの春の成績は天皇賞春も宝塚記念も勝利。しかも天皇賞春はレコードを更新してましたね。
『おうよ!春が始まる前は主役不在なんて言われてたけど、そこでアタシが主役として櫓の頂点に立ったわけよ!そして秋にはオグリが復帰して、毎日王冠で初対面したんだけど・・・まぁ、負けたよな』
それでも写真判定までもつれ込んでの決着でしたよね。
『一応はそうだな。それで『次期タマモクロスの誕生か』『オグリのライバルはイナリワン』って言いだすやつも現れてさ、調子乗ったとか言うわけじゃないけど・・・次こそは勝てるって思っていた。それに、次走の天皇賞秋は勝たないといけない理由があった』
「・・・天皇賞春秋連覇、ウチが前年に成し遂げた事やろ?」
『あぁ。タマとは顔を合わせりゃ言い争いをしちまうけど、成し遂げてきたことについては素直に凄いと思っていた。それに『イナリが勝てたのはオグリがいなかったから』とか言われるわけには言われるわけにはいかなかったんだけどなぁ・・・結果は惨敗、ジャパンカップでは更に順位が下がっちまった。
それに対してクリークは強かった。天皇賞秋は1着、ジャパンカップでも4着で日本のウマ娘の中では2番目に早かったんだ。そうなりゃ当然、オグリの次のライバルはクリークと言われるようになり、どこもかしこもオグリ・クリークの2強と、イナリワンの名前は何処にも無かった。
ははっ、笑えるだろ?もしオグリが怪我してなかったらアタシはG1なんて取れなかっただろうし、世界に名を轟かせるはずが1年もせず日本中からアタシの名前は消えかけていた。有馬記念も出走資格があっただけで、ジャパンカップよりもアタシが勝つことを信じている人なんて殆どいなかったって話しだ・・・』
それは・・・
「いやっ、現役中のイナリがこんなしおらしい考えしてるわけないやろ。むしろ負け続けたことで余計熱くなるタイプやで?」
『ちげぇねぇ!アタシの存在が見くびられたのなら、有馬でその実力を示せばいい!しかもただの勝ちじゃ駄目だ、それこそこれまでの歴史に名を遺すウマ娘たちすら過去にしちまう程の圧倒的勝利・・・1秒以上のレコード、これを達成した上での1着。これがレース前に自身に課した条件であり、アタシはそれを成し遂げたんでぇ!』
そこからイナリワンさん・オグリキャップさん・スーパークリークさんの3人で永世三強と呼ばれるようになりましたよね。
『あぁ。ちょっと掌返しが露骨な気もしたが・・・悪い気はしなかったな』
なるほど。それでは次の
「あー、今から話すのはただの例え話や。例えば~・・・イナリが春のG1に勝てなかったとしてな?代わりにG3辺りに勝利した状態で年末を迎えて、有馬に出走なんて無理と思ってたら、何か分からんけど出走出来るようになったと。それでレース前の注目度が低い状態。仮に下から2番目くらいの人気であの勝ち方したとして、同じように永世三強と言われてたと思うか?」
『いやぁ~、それは無理だろうな。あれはアタシの実績があってのレコード勝利だったから認められたのであり、下手すれば1秒以上のレコードを出したところで永世三強の座はアタシじゃなくてタマが座ってた可能性が高いんじゃねぇのかな?それこそ様々な条件が全て合わねぇと、たった一度のレースだけで世間が認めるなんてことはありやしねぇだろうな』
「ほ~ん、そういうもんか。で、次の質問はなんや?」
・・・次の質問ですが、次の有馬記念の結果がイナリワンさんの様に今までのレコードを1秒以上縮めての勝利だったとしましょう。しかし勝利したウマ娘はそれまでに大きな実績や全国的な知名度が無かった、もしかしたら不正をしたのでは?などの良くない疑惑が浮上してしまうかもしれません。
しかし、注目度が低いウマ娘が勝利した時『これは流石に納得せざるを得ない』と世間が認める勝利はあると思いますか?
「それは随分と難しい質問やと思うわ。まず有馬っちゅうのは、『このウマ娘に有馬記念を走って貰いたい』って世間の人々が思われてる事を人気投票で証明することが出走条件で、全国的な知名度の無いウマ娘が出走なんて絶対にあり得へん。
仮にそれを掻い潜れたとして他のウマ娘は全員格上やろうし、最終的には運良く掲示板に滑り込めれば万々歳や。それが1着、しかも歴史を塗り替える程の特大レコードなんてご都合主義、実際に走った側からしたら創作でも絶対に許さへんわ!」
『アタシも同意だな。仮にレコードの部分は譲歩するにしても、それがハナ差クビ差の接戦で勝利じゃ運やマグレと思っちまうよ。やるなら徹底的に、それこそ1バ身差はつけての勝利じゃねぇと認める訳にはいかねぇな』
『アカンアカン!レースちゅうのは脚の速さだけやなくて駆け引きも制してこそや!もし一番人気のウマ娘が徹底的に包囲され続けて実力発揮出来んかった結果、注目されてなかったウマ娘の独走を最後まで許した。なんて展開はレコード取っても許さへん!勝った本人からすりゃ、レコード勝ちも含めて実力と思うかもしれへんが、包囲網さえなければ注目ウマ娘が更に早いタイムでゴールした可能性を考えてまうわ!」
『他だとレース中に怪我したウマ娘がいたら駄目だな。特に上位人気のウマ娘がレース終盤で怪我して失速したとなりゃ、それをマークしていたウマ娘達のペースも乱れて展開が滅茶苦茶になっちまうし、そっちに注目が集まってしまう。
それに、もしタマが引退した有馬でオグリが絶不調。他の有力視されていたウマ娘も軒並み不調で、1着にこそなれたけど2着3着が面識のないウマ娘だったらどうするよ?』
「そんなもんアカンに決まってるわ。ウチは万全なオグリだったから負けすら受け入れられたのであって、オグリが絶不調な状態で勝っても嬉しくないわ。それこそ引退撤回して、オグリと最高のレースが出来るまで走り続けるやろうな」
『まぁ、2着から順に1番人気から3番人気くらいまで並んでたら『もしかしてその日だけは注目度が低いウマ娘が特に絶好調だったのか?』って思うかもな。
それにレースが終わればウイニングライブもあるけど、上位入選のウマ娘が知名度低いのばかりだといまいち盛り上がんねぇんだよな。そう言った意味でも、レース前に人気上位だったウマ娘達は結果でも上位に入んないと行けねぇし、人気下位のウマ娘もウイニングライブでせっかくセンターに立てたのに、あまりに自分を見てもらえなくて泣き出したって話もある。他にも観客からの罵倒とか悲鳴、落胆に対して耐える強いメンタルが無いと、本番のレースで実力を発揮出来ずに負けちまう事もある。
特に有馬、宝塚はそれが顕著に現れるだろうし、それを終始耐えるか、後の考えてない程の図太さがある性格じゃねぇと本番で実力を発揮出来ないだろうな』
「後はレコードがいつまで抜かれんかも重要や。レース終了直後は知名度と結果が相まって理解が追いつかんやろうし、一年二年で更新されようもんならマグレ感が強まる。けど、五年十年続けば自分の思い通りにならなかった怒りや興奮が収まって受け入れられる様になったりする筈や。
まぁ、そんなウマ娘の事なんてウチは全く知らへんけどな?」
『アタシもしらねぇなぁ。もしそんなウマ娘のレースを生で見た同期のウマ娘とかいたら、話聞かせて貰いたいもんだよな?』
「それえぇなぁ!ただウチもイナリも忙しい身やから、誰か代わりに話聞いてもらえへんかな?その時の会話内容を何か見返せるもんに纏めてくれると助かるんやけどなぁ?」
ふふっ、ありがとうございます。
『それは何の感謝か、アタシらにはわかんねぇなぁ』
「あと、ウチらの雑談は仕事に不真面目みたいでイメージ悪いから今のうちに全部カットしといてぇや。特にイナリと記者が言い争いになったなんて知られたら良くないからな!」
了解しました。
※インタビューの途中まで、特にタマモクロスがこちらに対して攻撃的な感じがしたものの、ダイユウサクの名前を出してしまった辺りから空気が変わった様な気がする。