4月16日(火)

用水路の掘りあげを一人でする。

 

今どき珍しい手掘りの用水路。

しばらく誰も手入れをせず、かなり埋まってしまった。

5年前にここの田んぼを借りたのは、昔ながらの用水路に惹かれたのが大きい。

少し上流はコンクリートの水路だが、1年中水が流れている。

そのおかげで夏に蛍が見られる区間もある。

「上流の水を秋から冬にかけてもこの水路に引き入れることができれば、いろんな生きものを復活させることができるかもしれない。」

そんな目論見もあって、10年来の耕作放棄地を苦労して復田した。

 

しかし、その目論見も風前の灯火。

水路の反対方向を見ると、こんな光景が広がっている。

 

 

田んぼの近くで8m幅の広域道路の建設が始まり、隣では関連した道路や用水路の工事が本格化している。

 

 

この広域道の建設を機に、街の大規模な再開発が計画されている。

市の構想では、上の農道の左側を商業地、右側を住宅地として開発し、近くに信越線の新駅を設置したいとのこと。

実際に不動産業者が土地の買収に乗り出していて、このあたりの田んぼの地主の間では、いくらで売れるか、話が盛り上がっている様子だ。

 

青写真が現実のものとなり、街がにぎわいを取り戻すのは喜ばしい限りだが、高度経済成長が終わりを告げて半世紀、人口が減る一方のこの時代に、ほんとうに可能なのか、どうか。

いずれにしても、手掘りの用水路も、トウキョウダルマガエルとアキアカネの羽化が飛びぬけて多いこの田んぼも、遠からず埋め立てられて宅地になるのは、間違いないようだ。

もっとも、誰もそんなことは気にしていない。

悲しい

 

4月18日(木)

柳瀬川沿いの農道を通ったら、耕作放棄地にいつもの(たぶん)雉くんがたたずんでいる。

私は、うちの田んぼをテリトリーとする彼のことを「ケン太くん」と呼んでいる。

軽トラを止めて様子を見ると、近くに小ぶりで薄茶色のメスがいる。

2羽は近づいたり離れたり、逢い引きを楽しんでいる様子。

おめでとう!ついに彼女をゲットしたか。

 

ところが目を前方に転じると、

 

 

すぐ隣の田んぼには狐の「コンちゃん」が!

じっと地面を見つめ、微動だにしない。

しばららくして、一気に鼻先を地面に突き刺した。

が、空振り。

その後、私に気が付いてじっとこちらを見つめている。

その距離、30m。

コンちゃんは、こちらを気にしつつ、雉の逢い引き現場の方に移動し始めた。

私もそっと車を降り、距離を保持しつつ並行する形でついていった。

幸い、カップルは異変を察したと見え、姿を消していた。

コンちゃんは、10m歩くと立ち止まり、こちらを注視すること1,2分。

彼(?)が止まると、私も止まり、見つめあう。
それを2,3回繰り返したところで、コンちゃんがいきなり吠えた。

「コワン!コワン!」

付近の空気が揺れた。

生まれて初めて聞く狐の声。

それは私が勝手にイメージしていた牧歌的な「コーン、コン」とはまるで違って、しわがれた迫力ある叫びだった。

私を威嚇し、追い払おうとしている。

 

私は胸の高鳴りを抑えながら、そーっと距離を詰めてみた。

コンちゃんは、それに気づくや否や、一気に駆け出した。

その早いこと、流線形に疾走し、時おり、ぴょーんと軽やかにジャンプする。

今まで「のんきで間抜けなコンちゃん」なんて言ってたが、まるで別人、と言うか別狐。

野生の走りであっという間に、ヨシ原に姿を消した。

 

 

ちなみに、そこは「ケン太くん」の根城と思われる藪。

大丈夫か。