1ー2 旅立つ理由、 


 「お恵みの春は、いつになれば訪れるのかのぉ?」


  暖炉の前にいて、タキストのおじいちゃんはそう呟いた。 


 「よもやすると女神さまは、ご自身のお仕事をお忘れなのではあるまいか? すると誰かが伝えにいかなくては…?」 


 コーディエンスの各地の長老たちや長老株たちが、その一つの暖炉を取り囲んでいた。 


 議題はもっぱら女神: ユダニキウスのことである。


「伝えにいく………..か、 こんな事はいまだかつて起きたことがない」 


 「さすれど、ひでりばかりが続く夏の年には、恵雨を嘆願しにいくこともあるじゃないか」 


 「――そうじゃな」「そうじゃよ」 


 「必ず、目的を達成できるわけではないがな」 


 「ところで、女神さまは何かのトラブルに巻き込まれてしまっておるのではないだろうか?」「というと?」


「たとえばだ、春風のハープを失くしてしまったり、あるいは誰かが盗みに入っただとか、あるいは、その賊が女神さまを幽閉しておるのかもしれん」


「どうしてそんな事をする必要が?」 


「そんな事ワシに聞かれても知らんよ――、 あくまでも可能性の話じゃ。 単に女神さまが時期の到来をお忘れの可能性も現段階では、残されておるわけだしな」


「――ふん」 


 「そして問題はもう一つ、誰が、女神さまのもとを訪れるかということじゃな。 道中、魔物が少なくない」


「それもそれで厄介じゃが、女神さまにお会いできるか、それ自体が難題じゃからな」 


「女神さまの住まいを知る者は?」 


「女神さまに謁見叶ったことのある者は?」 


「ここ数年で、東ゴルトーでは数人だけ、 西ゴルトーでも数人だけじゃな」 


「ロカリオ地方でも同じく数人…………」 


「一度あたりの探索成功率は?」 


 「いくつかのパーティーを組んで、同時に探せば成功率は自ずと上がるだろう」


「――ということは、各地の精鋭を集めりゃエェというわけじゃな」


 こうして話の方向性はあらかた定まった。


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 Question コーディエンスのことをより詳しく知りたい。YES → 1ー3α(第2話)  NO → 1ー3β (第3話)


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 1ー3α リウーのでまかせと、選出。 


「何を隠そう家の孫は(兄の方じゃが) 女神さまに一度、謁見しておる」「この子がか?」


「ううん、違う。こやつはまだ幼い。 一番上の兄のリウーだ」 


「すれば、東ゴルトーを代表してリウーをパーティーの中心に選出しようか」  


 ここでタキストが、やにわに立ち上がっていた。「僕は幼くない!」と口にしながら。 


「道中は魔物だって現れる。 樹海の中を行かなくてはならないし、一度、あの場所に足を踏み入れたなら、無事に出てこられる保証はない」 諭す口振りで祖父は言っていた。 


 すると暖炉の対面にあたる(この部屋の出入り口) 木製の扉が引かれた。 


 そこにはリウーが立っていた。 


「それとなく話は聞こえたよ、じぃちゃん」 


「どこの件(くだり)から聞こえていた?」 


「女神さまを探しにゆくんだろう?」 


「お前が行ったのは何時(いつ)の事だった?」 


「あら確か、2年か3年か前のひでり続きの時だよ」「どのくらいを要した?」「一ヶ月そこらだ」 続けてリウーが言う。 「でも次は、もっと短くて済むさ。だいたいの場所を覚えているからな」 


「やはり、リウーを東ゴルトーのパーティーリーダーに据えるのが適当だろうな」と西ゴルトーの長老株のひとりが口にする。 


「各々の地方でパーティーメンバーを構成しよう。そうして一週間とせん内に、出陣式をとりおこなわんと、さもなきゃ、いつまで待っても春は来ん」長老たちの体には、この寒さは殊更堪えるのだ。 


 1-3α--1 その旅路は険しい。 


 各地の長老たちが帰ってしまうと、吸炉のある、そこの部屋に残っていたのはリウーとタキストと彼らの祖父の 三人だけとなっていた。 


 やはりタキストが一番に口を開いていた。 


「僕は決して幼くない! 勇敢な戦士のひとりを担える」と豪語して。 


「勇敢なのは分かっておるよ。それでも旅路が険しいということじゃ….....」「……そうか?」疑問の呈でいるのは兄だ。 もっぱらこの疑問とは「旅路が険しい」という発言に対してだった。


「いいじゃない、我が弟はこの旅に出たがっている。 仮に、何かが起きたとして、それっていうのはある程度、自己責任だ」


  にわかに、兄の側から吹き始める追い風を、弟は予想だにせずいて、かすかに口角が持ち上がる。 

 

 といって、祖父という生き物は積み重ねてきたその齢(よわい)らしく頑なな(あるいは知見に富んだと言えよう)生き物で「………いかん」とだけ一言ふたりへ告げるのだった。 


「なぜ!?」迫ったのはタキスト。 


「遅かれ早かれタキストだって、旅へ出ることになる」 兄は、くっと唾を呑んだ。 


 「コーディエンスの地で生きる男の宿命でしょう?」


「お前の言っておることは何も間違ってはおらんよ」祖父も祖父とて、くっと唾を呑む。「覚悟は、何も間違ってはおらんけれども、とにかく、今のタキストの旅立ちは到底認められん」 祖父は続けて、こう言った。 


 「次の旅へ連れ立ったところで、今のこやつでは死ぬだけだからな」―――――――――――――――――――――――――――――――次回更新日、令和8年5月13日(水)午後15時頃を予定しております。いいね、チャンネル登録よろしくお願いいたします