☆☆たぶん世界初☆☆

大阪ミナミ、カーマストラ恋愛占門館
サーシャ.T先生原作のストーリーに
大阪キタ、占い館ノルテ
条願がアレンジを加え、
南北占い館オーナー同士による共作物語が実現!☆☆☆






一週間後...


帰り道。
辺りはすっかり暗くなっていた。

いつも通りの町への買出しのはずだったが、思いのほか遅くなってしまったのだ。

「腹減ったな.. 朝も早かったし..
今日はいつもに増して、なんか疲れちまったな...」

ノルトがそんなことを考えながら家路を急いでいると、草むらの中に大きな黒い物体があることに気がついた。

「なんだ? ...‼︎
人..⁉︎ 人じゃねえか!」
「...うぐぐ... 
く、苦しい...」

人だった。
歳の頃は40〜50代くらいの、ヒゲ面のみすぼらしい身なりをした男。
顔色も悪く、いまにも死にそうなうめき声を上げて苦しんでいる。

「おっちゃん! しっかりしろ‼︎
いったい、どうしたんだ⁉︎」
「...水...
水をくれ...」

男は強く水を欲していた。
顔色から推測すると、おそらく重度の腎臓病で、すぐに水分を取らなければ、かなり危険な状態だろう。
だが、この近くには井戸も川もなく、水を運べるような道具さえない。

「まずいな...
このままだと、確実に死んじまうぞ...!」

直感的に男の死を予感したその時、ノルトは自分のポケットの中に一枚のタロットカードが入っていることに気がついた。

一週間前に妖しげな魔術師からもらったカップの絵が描かれたカード。
それと同時に、あの妖しげな魔術師の言葉もノルトの脳裏をよぎった。

「カップのエース...
この聖杯の絵.. 今までお兄さんが助けてきた人々の、お兄さんへの感謝の気持ちを表すプレゼントだ。
お兄さん... 持ってるねえ...」

魔術師はにやりと不気味な笑みを浮かべ、こう続けた。

「祈りを込めて、このカードをお兄さんの額に当ててごらんなさい。
すると、あら不思議..
カードは魔法の水がたっぷり入った、魔法の聖杯に大変身..!」

魔術師はさらにオーバーな身ぶり手ぶりで、こう言った。

「その魔法の水を目の前の人に飲ませてごらん...
必ず、お兄さんのことを好きになるよ。
いわゆる惚れ薬とでもいいましょうかね..
ただし、このカードを使えるのはたった一度だけだ。
使いどころを間違えるんじゃあないよ...」


水... あるぞ...‼︎
だけど...

「この水を男に飲ませたらどうなるんだ..?
まさか俺、このヒゲのおっさんと付き合うことになるのか⁉︎」

ノルトは激しく躊躇した。
だが、そうしている間にも男の顔色はどんどん、どす黒くなっていく...

「...もう.. だめだ...」
「ええーい!
もう、どうにでもなれ‼︎」

ノルトが男の無事を祈りつつカードを額に当てると、カードは魔法の水がたっぷり入った聖杯に変化した。

男に水を飲ませると、みるみるうちに顔色が良くなり、しばらくすると何事もなかったかのように男は立ち上がった。

「にいちゃん..!あんた命の恩人だよ‼︎
ありがとう.. ありがとう!
これからはアニキ.. いや、ダーリンと呼ばせてくれい‼︎」
「うわーっ‼︎
わかったから抱きつくんじゃねえ!
気持ちわりい‼︎」


そして、一年後...


今日は、ノルトとカーマの結婚式の日。

「思えばこの一年間、いろんなことがあったよな...」

ノルトはめまぐるしく境遇が変化した、この一年間の出来事に思いを馳せていた。

一年前に命を助けたあの男...

実は国中を震撼させた、連続殺人犯だった。
だが、あの日ノルトの献身的な優しさに心を打たれ、自らの罪を償うため、その後自首。
現在裁判中だが、死刑判決は確実と言われている。
そして、この出来事がきっかけとなって数々の迷宮入りしていた殺人事件が解決に向かい、ノルトは町のちょっとした英雄となった。

また、時期を同じくしてキースに隠し子がいることが発覚し、キースとカーマの婚約は破棄された。

町の人々のノルトに接する態度は大きく変わった。

今までの、素朴な青年として接してくれたフレンドリーな態度から、大なり小なり雲の上の英雄として接してくる人々の態度に、ノルトはどうしても居心地の悪さを感じていた。

そんな日々の中で、カーマの態度だけは今までと全く変わることはなかった。

幼い頃からの変わらない笑顔で、相変わらずぶつかり合いながらも自分と同じ歩幅で歩いてくれるカーマと..永遠に手を取り合って生きていきたいと、心の底から思うようになった。

そして、今...

「ちょっと、ノルト!
もうすぐ結婚式だっていうのに、まだ寝癖ボサボサじゃない!
もう!ちゃんとしてよ‼︎」
「はいはい.. 先が思いやられるねえ..」

いよいよ結婚するというのに、やはり相変わらずいつもの調子のノルトとカーマ。

そして、その様子を窓の外から見守るひとりの男がいた。

「持ってるねえ...
打算のない献身的な優しさ...
いいねえ... 持ってるよ..!」

そう呟くと、男は一枚のカードをその場に残し、いつの間にか煙のように消えていた。

そう。
あの日ノルトの運命を変えることとなった一枚のカードを残して...