中華街の春節を観に行く為2月18日(日)に出かけました。ランタンを観る為に夕方に中華街で過ごす事になりましたのでその前に三渓園へ観梅に行きました。三渓園には下村寒山の名作「弱法師」の画材になった名物の「臥竜梅」があります。

一時は南側の竹に圧倒されて枯れそうであった臥竜梅でしたが7年ほど前に竹林を伐採して陽の光も風通しも良くなると見る見る恢復してきました。

此れが下村寒山作の「弱法師/重要文化財」です。原三渓が観山を自邸に招待して長逗留して、

庭の臥竜梅を観てこの名作を描きました.

臥竜梅の根元には一面日本水仙が自生しています。水仙も梅も春を告げる芳香で好まれています。沈丁花は芳香でも強いので茶室では「禁花」です。しかし、水仙も梅も微かな芳香で上品で精神も引き締まります。旧暦正月の茶花としては梅も水仙も最適です。臥竜梅の入口に「初音茶屋」があります。芥川龍之介が立ち寄り、ここでの接待を俳句に詠んだ

事で知られる休憩所「初音茶屋」では、囲炉裏に古釜をつるして麦茶を無料でふるまってくれます。三渓園を一回りして初音茶屋で麦茶を振る舞われて梅や水仙の香を愉しみ鶯の初音を聴き温かい麦茶を戴くのは楽しい事です。

芥川龍之介の御礼の俳句:ひとはかり うく香煎や 白湯の秋

此れが急速に回復した臥竜梅です

臥竜梅は根元を水仙で囲まれています。

三渓園大池の東三重塔の下に初音茶屋があって茶屋で麦茶を戴きながら臥竜梅と鶯の初音を愉しむ事が出来ます

初音茶屋は茶室の感覚で正六角形の東屋を建築したもので、

明治時代の一級茶人であった原三渓が感覚を研ぎ澄ませて建築しました屋根裏は葦が見え蕪葺きになっています。

芥川龍之介は原三渓に招待されて初音茶屋を訪れ白湯の接待を受けたそうです。その礼状に次の俳句を添えたそうです。

ひとはかり浮く香煎や白湯の秋

明治時代は春と秋にもこの初音茶屋に集って季節を楽しんでいたのでしょう。

私達夫婦も初音茶屋に腰かけて麦茶の接待を受けました。

初音茶屋の中央に組まれた囲炉裏鉄瓶で沸かした熱湯で煎じた麦茶の接待を受けられました腰掛の向こうに臥竜梅が見えます

麦茶の接待はボランティアの叔父さんがしてくれました。

私達の向かいに父娘の二人が座って麦茶を飲み始めましたむすめが父に自在鉤を指さして尋ねました「このお魚は何なの?」

お父さんは知ったかぶりをしてこたえます。「昔は貧しかったので夕食のおかずに事欠いた魚を観てオカズにしたのだよ!」私は正解を言いたくなったものの喉元に力を込めて黙っていました。

自在鉤は鉄瓶や鉄鍋と囲炉裏の火との距離を最適にするために日本民族が発見した工夫です。食べる事は命を保つ事ですから「囲炉裏や勝手の竈には工夫と呪いを集中します。自在鉤は天井から吊るした鉄鍋や鉄瓶の距離を最適にしたうえでロックする装置です。ロックするのが「横木」で横木に魚をデザインしたのは防火のおまじないです。魚は福が入って来る玄関に向けて設置します。初音茶屋に来る前に合掌造りの矢箆原住宅(重文)に寄りました。矢箆原住宅には居間と勝手に囲炉裏が組んであって何方も呪術が在りました。

矢箆原住宅(重文)

矢箆原住宅(重文)の居間には囲炉裏があって脇に餅花が飾ってありました。

此方は矢箆原住宅(重文)の勝手に組まれた囲炉裏です。

自在鉤は日本民族が開発した工夫です。更に魚好きな民族が愛情と幸いを祈願して横木に魚をデザインしたのでしょう。東大寺大仏殿屋根上の「鴟尾しび」も名古屋城の鯱も空想上の魚です。

湯島聖堂の屋根に飾られた鯱も火災防止の魔除けです

臥龍梅の龍も空想上の動物です。春節は新年の幸福を祈る祭事です。おまじないが沢山集まるのは自然な事で昨夜も雨が降って今朝は蕗の薹が一段と芽吹いています。初音茶屋の自在鉤の魚は火災除けの呪いで間違いないでしょうが、夕餉の肴と云うお父さんの珍説も現代的で面白いと思いました    【了】。