今晩の夕食は「鴨鍋」の約束です。既にタイ産と云えども鴨肉を求めて在ります。昨日は葱を買って来ました。葱は香ばしく焼いて昆布出汁を煮たてた鍋に入れて鴨鍋を戴く予定です。私の父は葱を栽培する名人でした。実家(盛徳寺)の境内の畑で丸々太った葱を作って夕餉の時間が近づくと持って来てくれました。屹度湯豆腐にして夕餉に誘ったら喜んでくれた事でしょう。まして今晩は鴨鍋です。昔新発田を旅して道路沿いのレストランに入った時駐車場の横が池でカルガモを飼育していました。カルガモ農法をしている農家で一夏働いたカルガモをレストランが預かって越冬させ、翌年田植えを終わったら農家に戻して働いて貰う仕組みでした。そんなカルガモさんを焼いて食べるのですから人間は悪業な生き物です。

新潟県新発田市の郊外レストランでは合鴨を預かって夏は農家に貸し出し冬に食材に供する事業をしています

私の父は何処の寺で修行したのか聞いた事はありません。でも祖母から聞いた話では仲人を大雄山最乗寺に大島副住職であったそうですから、大雄山最乗寺で修行を終えたのでしょう。同寺の参道には幾つも茶屋があってトロロ飯が名物です。屹度父の野菜栽培は最乗寺で仕込まれたのでしょう。

此れが曹洞宗の修行寺院の大雄山最乗寺です、

最乗寺は曹洞宗を代表する修行寺院ですから参道には「不許葷酒入山門」の碑が建っています。臭いモノ(葱や忍辱等)や酒は山門の中に入る事を許さずの意味ですから、葱は境内に入れないのです、まして境内で葱を栽培する事等もっても無い事です。でも僧侶は葱が体に良い事は熟知しています。何処の禅宗寺院でも門前には美味しい豆腐屋があって湯豆腐を名物に商っています。

何処の禅宗寺院にも「不許葷酒入山門」の碑が建っています。

特に有名なのは京都の南禅寺や嵯峨野大覚寺で門前には日本を代表する湯豆腐やさんが在ります。南禅寺の「純正」、岡崎の「豆狸」嵯峨野の「嵯峨野稲」等が著名ですが。年金爺さんには縁のない価格です、でも美しい庭園や部屋代だと思えば致し方ない事でしょう。湯豆腐は豆腐が主役でも美味しい軟水と葱が必須です。

南禅寺の「純正」の湯豆腐、薬味の葱が必須です。

臭い食べ物は修行の邪魔になるので入山出来ないのです。臭い野菜と云えば「ニンニク」に「韮」に「葱」です。特に京都の九条ネギは野蒜に近く柔らかくても臭さが強いのです。冬場の修行は体力を削ります。病気に懸り易いのも事実でしょう。昔から風邪をひきそうになったら葱を首に巻いて喉を冷やしました。日本武尊は最乗寺に近い足柄峠を越える際に大鹿に化けた邪神を野蒜で叩いて退治します。野蒜は葱の祖先でありあの固有の「アリシン」という名の成分です。本来葱が虫や猪に食われない様に保有している成分が人間が食べると「疲労回復」や「風邪予防」に効果がある事を体験的に熟知したのでしょう。同じ仲間の「行者ニンニク」は修験道の行者が体力恢復の為に使った食材でした。私の父も修行時代に葱のお世話になって葱栽培を熱心にしたのでしょう。そして冬至を過ぎると葱を畑から引き抜いて持って来てくれたのでしょう。当時は未だ若造であった私達夫婦は父の有難味も気づかず不格好で太い葱を食べて感謝の言葉も忘れていました。今晩の鴨鍋には父も食卓に呼んで感謝の言葉を述べたいと思います。 

 

         夕餉に予定している「鴨鍋」写真出典味の素レシピ

                                        【了】