冒頭の雨の日、電話ボックスで出会うデンジとレゼ。
アニメでも印象的だった彼女の柔らかな笑顔が、映画のスクリーンではさらに生々しく、温度を持って感じられました。
「普通の女の子」としてのレゼの姿があまりに自然で、こちらまで恋をしてしまいそうになる。
そしてその直後に訪れる爆弾の悪魔としての圧倒的な戦闘シーン。
花火のように散る火花、耳を突き抜ける爆音、鮮血と煙。
静かな恋の予感から、残酷な戦いへの落差が、心臓を鷲掴みにします。
レゼはただの敵ではなく、デンジにとって「初恋の人」として記憶に残る存在。
映画はその二面性を見事に描き切っていました。
彼女の言葉や仕草の一つ一つが、観客に「本当は彼女も幸せを望んでいたのではないか」と思わせる。
特にラストシーン。
彼女の瞳に映っていた感情が何だったのか、観客ごとに解釈は分かれるはず。
私はただ、切なさに押し潰されるような感覚を覚えました。
デンジは「普通の恋」を夢見てきた少年。
その夢が壊れていく瞬間、彼の表情に浮かぶ戸惑いと悲しみ。
それでも戦わざるを得ない宿命。
彼の成長の一歩が、こんなにも痛みに満ちていることに胸が苦しくなります。
映画『チェンソーマン レゼ編』は、激しいアクションと同じくらい「もしも」の余韻を残す作品でした。
もしレゼがただの少女だったなら。
もし二人が普通に恋をしていたなら。
そんな考えが、いつまでも消えてくれません。
原作ファンにとっても、新たに『チェンソーマン』を知る人にとっても、この映画は忘れられない体験になると思います。
痛くて、苦しくて、それでも美しい。そんな一作でした。