2023年にカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞したフランス映画です。雨の日曜日、日比谷シャンテで観てきました!


この映画は、雪山の山荘で夫が転落死したベストセラー作家の妻サンドラが、殺人容疑者として法廷で戦うというストーリーです。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子と犬だけでした。事件の真相を追っていく中で、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ真実が現れますが、完全なる真実は誰も知り得ないのです。


この映画の魅力は、緻密な脚本とリアリティのある演技です。サンドラ・ヒュラーは、夫の死と自分に向けられる疑いの視線に揺れる妻を見事に演じました。感情を抑えながらも、読めないが共感できる表情や言動で、観客を引き込みます。また、サンドラを支える弁護士や息子、検事などの助演陣も存在感があり、物語に深みを与えます。特に、犬のスヌープは、俳優犬に贈られるパルム・ドッグを受賞するほどの名演でした。


『落下の解剖学』は、人間の深層心理に迫った重厚なドラマです。法廷での理論や感情のせめぎ合い、夫婦や親子のぎこちない関係、人々がある出来事をさまざまな視点から見たらどうなるかなど、興味深いテーマが盛り込まれています。そして、出来事から時間が経つほどに、記憶も薄れ、状況証拠も減っていく中で、どうにか真実に近づこうとあがく人間たちの姿に、我々も自分の立場や価値観を問われるような気がします。