買いませんよぉ~♪
ミュージカル調の軽口を叩きながら千鳥足で店に入ってきたのっぽの老人は、明らかに酔っ払っていました。
私は酔っ払いが死ぬほど嫌いです。
でも見せてね~♪買いませんけどね~♪
通常機嫌がよければ、買いませんじゃなくて買えませんでしょっ!、くらいの返しをするか、機嫌が悪ければ出てってください、と云わんばかりの笑顔を振りまきます。
息だけでなく、全身から酒粕臭い臭いを放つ足元も覚束ない老人。
これはダメだね~♪頭だけだもんね~。
仏頭に顔を寄せて軽快な歌声はやみません。
こっれはいいね~、でも高いから買いませんよ~♪
乾漆仏を覗き込みながら身体を揺すってスウィングしています。
私は酔っ払いが死ぬほど嫌いです。
死ぬほど嫌いな酔っ払いを黙って泳がせていたのは、気が付けばその酔っ払いの爺さんが、いつの間にかほろほろと涙を流していたからです。
買いませんよ~買いませんよぉ~♪
また来てくれるかどうかは判りませんが、できたらまた来て欲しいな、とふらつく後ろ姿に掌を会わせました。