1967年のロックを代表する二大金字塔、ビートルズの「サージェント~」とビーチボーイズの「スマイル」。

ヒットシングル二枚に捨て曲10曲と言う当時のLPの基本フォーマットを、一つのコンセプトに従って物語性を持たせ、LPそのものを一つの作品=トータルアルバムへと進化させた意義は大きい。

そういった動きは、70年代のアーティストに大きな影響を与えた。その一つの形態がロックによる舞台芸術、ロックオペラだった。

その代表格がザ・フー。以前「トミー」の話は書いたので繰り返さない。エリザベス女王のスタンディング・オベーションを受けた名作、映画化もされた。

その成功を受けてピート・タウンゼントが取り掛かったのが1971年の「ライフハウス」だった。

あらすじを説明すると、舞台は近未来、コンピュータが全て管理する社会。自宅を出る事すら禁じられた人々、全ての人生経験はバーチャルリアリティによってしか与えられなかった。このマザー・コンピュータにハッカーが侵入する。

ハッカーのウイルスによって、人々は古ぼけたライヴハウス「ライフハウス」へ導かれる。そこにいたのはロックバンド。彼らのライヴを実体験することによって、コンピュータに支配されていた人々の心が解放されていく…。

デモリションマンやマトリックスは、少なからずこの設定をベースにしているため、今の我々には特に奇異なストーリーではない。

しかし当時、ピートのインテリジェンス溢れるコンセプトは周囲に理解されなかった。幸いメンバーはピートを最大限理解しようと努めたし、実際にそのコンセプトを元に何回かライヴを行っている。

とはいえスタッフやレコード会社、ファンにはそのコンセプトはついぞ伝わることはなく、二枚組のサントラ予定曲20曲を残してプロジェクトは瓦解した。

結局、そのサントラ予定曲を次作品「フーズ・ネクスト」やシングルとして発表するに留まった。代表曲は「無法の世界」。フォロワーによる多数のカバーが存在する。

この「フーズ・ネクスト」の素晴らしい出来栄えに(ここは「スマイリー・スマイル」の評価とは全く逆だった)、ファンは失われたプロジェクトの偉大さを知らされる事となった。

「スマイル」同様、各種ブートも編まれ、ファンはそれぞれの「ライフハウス」を求めたのだった。

結局1990年代後半にラジオドラマが作られ、当時の音源は六枚組のボックスセット(通販のみ)となった。