体調不良で、二日間ブログを休みました。
例年10月10日前後は、事情があって精神的に良くない日に当たります。
今回は隣室との激しいトラブルも事前にあったため、なおさら駄目でした。仕事には出ていましたが、周囲にもはっきりわかる落ち込みだったようです。二日連続で点滴に行かざるを得なくなりまして、隠れて大家さんが慰めに来たほどです。
隣室を刺激するとまずいので、当面自宅では日中でもヘッドホンなしにステレオは使えません。洗濯機も掃除機も使えないのは正直参りました。

とはいえ、音楽を聴かないわけにもいかず、この間は密閉型のヘッドホンでリマスター盤を聴いていました。やはりモノボックスの音質は良いですね。ただ当時のアナログLPやオープンリールと比較してどうか、と訊かれれば、それはアナログLPのマトリクスの若い盤(初期作品ならブラック・パーロフォンやゴールド・パーロフォン、中期ならマトリクス1)の方が数段勝るのです。こればかりは時代の制約、いかんともしがたいものがあります(特に「ヘルプ!」や「ラバー・ソウル」なんかは顕著)。とはいえ、当時のリリース背景を知らない若い世代に伝えるビートルズの音としては、今回ようやく合格点がつけられそうです。

さて、ステレオ盤は、とりあえずこの間「サージェント」「ホワイトアルバム」「レット・イット・ビー」「アビイ・ロード」と聴いてきました。今日は「レット・イット・ビー」の話。製作背景については当初発表予定だった「ゲット・バック」の三種類あるアセテート、そして放送音源(Aロール・Bロール)からのブートを交えて、春からしつこくお話して来たので、それも参考にして聴いていただけると幸いです。

おそらくスタッフが、一番気を遣ったのはこの「レット・イット・ビー」ではなかったのでしょうか?
発売当時から、フィル・スペクターのプロデュースには賛否両論ありましたし、単独の曲としての評価と裏腹に、アルバムになると途端に散漫な印象になる(収録曲の傾向・音質・演奏時のテンションがバラバラ)という欠点が、リマスターでさらに増幅されないか?という問題。そして2003年発売の「ネイキッド」との関連です。

百聞は一見に…ではなく一聴に如かず。ということで、早速プレイ。
「ホワイトアルバム」以前の作品と違って、「レット・イット・ビー」自体は、元々音圧が高く、リマスターでの効果は弱いかな…と正直思っていたのですが、かなり音質がクリアになった印象はあります。フィル・スペクターは、元来モゴモゴした音(ウォール・オブ・サウンド)を好むだけに、私が買った後期マトリクスのLPや旧盤CDの音がかなり印象として定着していたのかもしれません。リンゴのシンバルの音の歪みや深刻だったヒスノイズもかなり改善されていたことには驚きました。

先行して発表されていた「ネイキッド」(比較対象は音の悪すぎる日本盤CCCDではなく、私が持っているEU盤CD-DA)との比較では、私は「ネイキッド」に軍配を揚げますけれど、これは好みの問題でしょう。「ネイキッド」にもリマスター盤にも、それぞれ問題点は見られますし、フィル・スペクターとジョージ・マーティン(&ポール)のどちらのプロデュースを取るか、それだけの問題です。

しかし結局のところ、音質の問題ではないのです。このアルバムだけは。私にとってのベストは、本来出されるはずだったグリン・ジョンズによるプロデュース「ゲット・バック」(1stミックス)、これに尽きます。例えば「ディグ・ア・ポニー」。フィル・スペクターによるものと、

「ネイキッド」のジョージ・マーティンによるものと、

グリン・ジョンズによるもの(ルーフトップそのまま)

を聴き比べれば、その答えは自ずから明らかだと思います。言って置きますが、これ同じテイクなんですよ!旧盤でもリマスター盤でも、「ネイキッド」でもないのです。本来のコンセプトは。

しかし、リアルタイムでビートルズの解散に立ち会った世代(私より一回り上の方々)にとっては、フィル・スペクターによる過剰プロデュースが鼻に付く「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」(日米のみシングルカット。米ビルボードで2週1位)

が、ビートルズのラストそのものであったという感慨と郷愁も、解散と同時期に生まれた人間として充分に理解してはいますけれどね。

さて、病院と職場との往復の憂鬱な二日間でしたが、薪炭手当の臨時収入があったので途中寄り道してブックオフあたりでCDや本を購入したりしました(ああこれで今月ストーブ炊けない…)。
CDは、ポールの「オール・マイ・トライアルズ」、「スノーヴァ・フ・エスエスエスエール(バック・イン・ザ・USSR)」、「フラワーズ・イン・ザ・ダート(現行日本盤)」、「フラワーズ・イン・ザ・ダート(日本のみスペシャル・パッケージ2枚組)」、「アメーバズ・シークレット」の5枚。
本はW・バロウズ「裸のランチ」と「ソフト・マシーン」(ともに河出文庫)、藤沢モト(故藤沢秀行名誉棋聖夫人)「勝負師の妻」(角川Oneテーマ)、香山リカ「貧乏クジ世代」(PHP新書)、所司和晴「東大将棋・三間飛車道場②・③」(マイコミ)、加藤一二三「加藤流最強三間飛車撃破」(マイコミ)の7冊。

ウイリアム・バロウズについては60~70年代ロックとの関連性(コカイン・コデイン・ヘロイン・LSDなどのドラッグ文化)が高いので、今後度々触れると思います。本当はサンリオ文庫の「ノヴァ急報」あたりも探しているのですが、絶版で異常な高値のため、予算が足りません(おそらく2~3万するかしら。間違ってもブックオフの105円の棚にはありません)。

ポールの「フラワーズ・イン・ザ・ダート」なんて3枚目(今まで持っていたのはUSキャピトル盤輸入CD)ですが、それぞれボーナストラックが違っているので、結局買ってしまいます…。思えば「オフ・ザ・グラウンド」も、最新譜「メモリー・オールモスト・フル~追憶の彼方に~」もそうだなあ。ビートルズのリマスターだって結局そうだけど、最近のレコード業界はずるいと思いつつも思う壺(苦笑)。「フラワーズ・イン・ザ・ダート」の話は、同時期に出たエルビス・コステロの「スパイク」(1989)を聴き直してから書きたいので後日また。

後日またポールの「プレス・トゥ・プレイ」「バック・イン・ザ・US」、「バック・イン・ザ・ワールド」、ハイライトでない方の完全盤「トリッピング・ザ・ライブ・ファンタスティック(ポール・マッカートニー・ライヴ!)」、そしてリンゴのオールスターバンドもの(これは稀少盤なので後日紹介)の5枚の中古盤が到着予定です。これらをMP3に入れて、連休明け浅虫温泉へサイクリングに出かけようと思います。どうやら点滴だけでは、うつって回復しないみたいですから、力づくでセロトニンを分泌させます…。

「拜復。氣取つた苦惱ですね。僕は、あまり同情してないんですよ。十指の指差すところ、十目の見るところの、いかなる辯明も成立しない醜態を、君はまだ避けてゐるやうですね」(太宰治)