続いて「ソー・タフ」の話です。実はこのアルバム、ビーチボーイズ名義で発売されたアルバムではありません。しかし、なぜか「ペットサウンズ」と抱き合わせ販売されたため、全く再出発の意味をなしませんでした。
今日はその意味を探ってみましょう。

1971年当時には、復帰のメドが立たないブライアンに代わって、カールがバンドの新しいリーダーとなったと見なされていました。また、1972年デニスがやけどをし、しばらくドラムが叩けない状態になります。そこでカールは当時目をかけていた南アフリカの黒人バンド、ザ・フレイムのプロデュースかたがた、サポートメンバーとして彼らを呼び寄せます。カールのプロデュースにより、フレイムはアルバムを発表しましたが、セールスは惨敗。フレイムは解散に追い込まれます。

そこでカールはドラムスにリッキー・ファター、シンガーのブロンディ・チャップリンを加入させ、バンドをデビュー前の「カール・アンド・ザ・パッションズ」に戻し、新しいバンドとしてR&B路線を目指すことにしました。
しかし、この路線変更は白人中産階級の代表として活動していた彼らに、人種差別的な非難の世論を喚起することとなってしまいました。

アルバムのセッションが始まると間もなく、ブルース・ジョンストンはマネージャーのジャック・ライリーと対立し、バンドを脱退し、結局「LA」(1977)まで戻って来ませんでした。

さて、実は新しい二人の加入を殊の外喜んでいたのはデニスでした。デニスは彼らの才能を大きく評価し、ソロアルバム向けの自作曲の共同制作を始めたのです。後に出る「パシフィック・オーシャン・ブルー」や幻の「バンブー」の曲の一部は、このようにデニスが外部のミュージシャンと積極的にコラボレートするスタイルで生まれたものです。その影響は本アルバム中の最終トラック「カドル・アップ」に結実します(「カドル・アップ」は、キャプテン・アンド・テニールのダリル・ドラゴンとの共作)。

しかし、路線変更と改名をリプリーズは喜んだわけではありません。そこで「ペットサウンズ」との二枚組(大量の売れ残りを捌く目的でもあった)とすることによって、「これはビーチボーイズのアルバムである」とアピールする戦術に出たのでした。結果、カールの新バンド構想は失敗に終わったのでした。

'So Tough'「ソー・タフ」曲目
1.メス・オブ・ヘルプ - You Need A Mess Of Help To Stand Alone (Brian Wilson/Jack Rieley) 3:27
2.ヒア・シー・カムズ - Here She Comes (Ricky Fataar/ Blondie Chaplin) 5:10
3.ヒー・カム・ダウン - He Come Down (Brian Wilson/ Al Jardine/ Mike Love) 4:41
4.マーセラ - Marcella (Brian Wilson/Tandyn Almer/Jack Rieley) 3:54

5.ホールド・オン・ディア・ブラザー - Hold On Dear Brother (Ricky Fataar/Blondie Chaplin) 4:43
6.メイク・イット・グッド - Make It Good (Dennis Wilson/Daryl Dragon) 2:36
7.オール・ディズ・イズ・ザット - All This Is That (Alan Jardine/Carl Wilson/Mike Love) 4:00
8.カドル・アップ - Cuddle Up (Dennis Wilson/Daryl Dragon) 5:30


しかしファンは、突然のR&B路線への変更、黒人の加入を快く思わず、セールス的には全く奮いませんでした。そこでライリーは、ある突拍子もない計画をビーチボーイズに突きつけます。

(来週の「オランダ」に続く)