「最愛の子」との関係に幸福を感じているものの、性的に成就しないことに苦しんでいた佐竹さんは、出張先の金沢で魔がさしたのか、新たな女性との性愛にのめり込んだ。

取引先の宴会に来ていた女性社員だった。とても話が合うので、翌日、ディナーに誘うと、女性から悩みを打ち明けられて人生相談に乗った。既婚者の彼女は姑との関係で苦しんでいた。

 

すぐにでも離婚をしたいが、小学生の子どもがいるので踏み切れないということだった。ノイローゼのために精神科に通院していて、一時期は入院したということまで告白された。

いつものことだが、「哀れな女」を放っておけなくなった。彼女のほうも「優しい男」に惚れ込んだようだった。

 

もちろん佐竹さんは東京に恋人がいるので、彼女のほうから誘ってきても、「すごく好きな人がいるから」と断わった。しかし彼女が淋しそうにしていると、ますます放っておけなくなり、「恋人がいてもいいんなら、君の役に立ちたい」という気分になった。そして最終的に、甘えてくる彼女を受け止めた。

 

「自分の人生がからつぼだから、そういう子のために何かをしてあげたいという気になっちゃうんだよ。一種の目的喪失だからさ、自己証明、自己達成感が欲しくて、それが特に女の子に向かっちゃうのね」

 

しかし当初は、「一晩だけの奉仕」のつもりだったのが、セックスのあとは佐竹さんのほうが深入りしてしまった。勃起したのだ。

 

「久しぶりに『走る』っていう感じだったね。男だったら、わかるでしょ?血液がドッと流入していってさ、感覚がビンビン来てさ、スピードがぐんぐん加速していく感じだよ。なんで回復したのか不思議だったんだけど、愛情という重しがなかったから割り切れたのかもしれない。それから、一種の現実逃避による解放感だよね。金沢っていう街がそれにピッタリで、借金や離婚のことも忘れられて、女の子に集中できたんだよね」

 

東京に戻れば、あいかわらずEDの症状は続いた。恋人に対する愛情はますます深まっていき、結婚さえ意識するようになったにもかかわらず。

 

性的な欲求不満は恒常的になり、しばしば金沢の夜が恋しくなった。彼女からは何度もラブコールがかかってきたので、誘われるままに、毎月のように金沢へ通った。ときには待ち合わせ場所からラブホテルに直行し、野獣のように彼女の肉体をむさぼった。

 

「ある意味で破壊的になれるんだよ。その堕ちていく感じがまた病みつきになっちゃうんだよな。懐が淋しいときは借金をして旅費をつくったんだけど、彼女には『サラ金で借りて、おまえに会いに来たんだぞ』なんて無頼派みたいなことを言えるんだよね。最愛の子には口が裂けても言えないよ。そのくらい世界が違ったんだ」

 

ところが案の定、長続きはしなかった。深入りするにつれ、金沢の女が嫉妬をあらわにするようになった。佐竹さんの携帯電話から東京の恋人の電話番号を調べあげ、無言電話をかけるようになった。佐竹さんへの電話でも、酒か睡眠薬の飲みすぎでロレツが回らず、「あんたは女を舐めてんのよ!」「その子と別れないんなら、死んでやる!」などと叫んだ。

 

自業自得なのだが、佐竹さんは心労で倒れそうだった。ある日、金沢の女が「いまから東京に行って、あの子に会うから」と電話をしてきた。「ちよ、ちょっと、待ってくれ。話し合おう。いまからそっちに行くよ」と佐竹さんは慌てふためき、飛行機で金沢に駆けつけた。

 

なんとか説得しようとしたが、彼女の感情は限度を越えているようだった。「殴らせて!そしたら別れてやるわよ!」と彼女が怒鳴るので、海岸に行き、佐竹さんは数十発殴られた。

 

顔が腫れ、唇が切れた。「気がすんだか」と佐竹さんがつぶやくと、彼女は「やっぱり行かないで!」と泣き崩れた。そして、すべてが終った。

 

「後の祭りだね。結局、彼女とは別れたんだけど、最愛の子にもばれてしまったんだよ。もともと勘付いていたみたいだし、どうも金沢の子がFAXか何かで知らせたらしいね。そのへんは、ふたりのことだから、詳しくわからないけど。最愛の子は、『耐えられなどとだけ言って僕から静かに離れていったよ」

 

二兎を追う者は一兎をも得ず。その教訓だけが残った。

 

 

3人に1人が勃起不全で悩んでる現代において、もはやEDは他人事ではありません。些細なことがきっかけでEDに陥る男性が多いのです。しかし、勃起不全の症状があっても実際に医療機関で診察を受ける男性は5パーセントに満たない程度で、殆どの男性が受診しないのが現状です。

 

EDの治療をうけない理由のひとつに医療費が高額であることがあるようです。日本ではED症状を深刻な病状であるとみとめていないため、保険が適用されません。そのため高額な医療費はすべて受診者が負担することになり、診察費用と合わせてED治療薬のバイアグラの購入費用も自己負担となります。