延命措置をするかしないかを書類で・・・

 

 心より愛と感謝を込めて

 

済生会横浜市東部病院副院長・山崎元靖さん

 読者から救急搬送に関わる悩ましい質問が寄せられました。予定を1回延ばし、紙上でお答えします。

 

 質問者は、静岡県の81歳の女性。昨年夫を亡くし、息子さんと2人暮らしです。血圧と骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの薬をクリニックで処方されていますが「元気で、病気の認識はない」。以前から「終末期には延命処置は必要ないと思っている」そうです。

 

 質問は二つ。一つは、「急に家で倒れ、救急車を呼ばなかったら、息子が罪に問われるのか」。もう一つは「日中に倒れ、息子が帰宅した時点で私が死亡していたら、電話するのは110番か119番か」。

 

 「罪になるのか」はよくされる質問です。「あとで警察に死体遺棄などで責められるのではないか」という不安からでしょう。二つ目も根本は同じで「警察か救急にまずは連絡しないといけない」という発想です。そこにはかかりつけ医に看取(みと)ってもらうという考えはありません。

 

 質問者は「終末期」に「延命処置は不要」と思っています。ちなみに「最期まで本人の生き方を尊重することが重要」として、厚生労働省は2015年に「終末期」を「人生の最終段階」と言い換えました。まず倒れた時の状況が「人生の最終段階」にあるのかを判断しなければなりません。

 

     *

 でも、自分が「人生の最終段階」にあるのかは、自分で簡単に判断できません。がんの末期のように比較的予測が容易な場合もあれば、老衰などのように、ゆっくり死に向かう場合は、いつからが「人生の最終段階」なのか、はっきりしないことも多いのです。厚労省のガイドラインでも「人生の最終段階」であるかは、本人の意向や状態を踏まえ、医療・ケアチームの適切かつ妥当な判断によるべきだと解説されています。

 

 そこでお勧めしたいのが、アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)です。本人と家族、かかりつけ医ら医療・介護の関係者が話し合い、本人の人生観や価値観を共有してもらい、さらにこれを繰り返します。健康な頃から始めて構いません。その中で、どういう状態が「人生の最終段階」なのかを本人と周囲が知っていれば、慌てずに対処できると思います。質問者は息子さんを交え、今かかっている医師に相談しACPを始めて下さい。大きな持病がないからと遠慮する必要はありません。医師たちも元気なうちからACPを始めたいと思っています。

 

 「人生の最終段階」でない状態で急に倒れた場合は、すぐに119番をするべきですし、最終段階にある場合は、まずはかかりつけ医に連絡して判断してもらうのがよいでしょう。こうした準備をしておけば、誰も罪に問われないと思いますし、110番か119番かと悩むこともありません。(構成・畑川剛毅)=おわり

     *

 済生会横浜市東部病院副院長・山崎元靖さん 1970年、千葉市生まれ。慶応大医学部卒。同学部救急医学助教などを経て2008年、済生会横浜市東部病院救急科へ。17年から救命救急センター長、昨年から副院長を兼ねる。

本日 朝日新聞 beより