そう考えるようになってしまうと、介護認定を受けている高齢者は変わらない。あるがままでこちらが対応を考えないと・・・

 

 心より愛と感謝をこめて

 

 

介護ハラスメントの例

 介護を受ける高齢者が介護職員をたたき、怒鳴り、胸をさわる。そんな「介護ハラスメント」が後を絶たない。介護が必要なお年寄りは急増中で、労働環境の悪化は人手不足の深刻化につながる。国も対策に乗り出した。

 

 ■7割超が被害経験

 東京都内の介護事業所で働く藤原るかさん(64)は、この道30年のベテランだ。高齢者の自宅をまわり、掃除や洗濯、食事や着替えなどの介助をしているなかで、心ない言葉をぶつけられ、「我慢に我慢を重ねてきた」と語る。

 

 「素手でやって!」。ある家庭でゴム手袋をつけてトイレ掃除をしていたら、家人からそう言われた。「素手で触れないほど汚いと思っているのか」。いらついた口調で迫られ、やむなく従った。

 家庭ごとに家事のやり方が違うのは当然だが、最近は「掃除機を幅木にあてるな」「洗濯物はお湯で洗え」などと細かく命じられる。藤原さんは「ささいな手順の違いを許せない人が増えているように感じる」と言う。

 

 家庭や施設のなかに隠れて見えにくかった介護ハラスメントを可視化したのは、労働組合の調査だった。介護業界で働く8万4千人が入る日本介護クラフトユニオンは昨年、要介護者やその家族から受けるハラスメントに関するアンケートを実施。回答した2411人のうち74・2%が「ハラスメントを受けた」と答えた。

 

 ■自覚ない高齢者も

 アンケートからは迷惑行為が横行している様子がうかがえる。「攻撃的態度で大声を出す」「契約や制度にないサービスの提供を強要する」といったパワハラのほか、キスや性的な発言をするなど女性職員へのセクハラも目立つ。

 

 介護特有の課題もある。高齢者の生活や健康に直結するサービスだけに、問題が起きても中止しにくい。認知症や精神疾患などの症状が出ている場合はなお、対応が難しくなる。さらにユニオンの村上久美子副事務局長は「世代間ギャップで、お年寄りの側にハラスメントの意識が薄い。業界内には難しい人をうまくあしらって一人前という見方も根強い」と話す。

 

 実態が明るみに出たことを受け、厚生労働省は3月に介護ハラスメント防止のマニュアルをつくり、自治体経由で各地の介護事業者に配った。今年度もより具体的な対策の手引をまとめている。

 

 ■「待遇改善が重要」

 マニュアルでは、ハラスメントを受けた職員がひとりで問題を抱え込まないように、組織としての丁寧な情報共有を重視している。相談窓口の設置を求め、行政などとの連携も呼びかける。

 

 実現のためにはマネジャー職の確保や余裕がある労働環境が必要だが、今も人手は足りていない。

 

 厚労省の推計によると、急速な高齢化で要介護者は2025年度に771万人になる見通しだ。現在より100万人以上増える。必要な介護人材は245万人と見積もられており、今より約40万~50万人も増やさなければ対応できない。

 

 人材確保の一環として、政府は介護分野への外国人労働者の受け入れを進めているが、実践女子大学の山根純佳准教授(ケア労働論)は、「言葉の壁があり、周囲に相談もしにくいので、大きなあつれきを生みかねない。いま以上に問題が深刻になるおそれがある」と話す。政策で介護者の待遇の改善を図ることが欠かせないと指摘する。(土屋亮)

本日 朝日新聞 朝刊 より