カクザン:今回より、「真景累ヶ淵」のあらすじをご紹介してまいります。「牡丹灯篭」の時には超高速流のあらすじ紹介となりましたが、今回はかなり丁寧な紹介になりそうですね。
テガタ:かつてワシがつくったあらすじなんじゃが、削るのが惜しい箇所が多くてのう。長丁場になるかもしれんが、ほとんどそのまま紹介していくことにするぞ。連続モノの醍醐味を味わってくれ。
1.宗悦殺し
根津の七軒町に住む皆川宗悦という鍼医(要するに盲人)は、50歳を超えてから女房と別れ(死別か離婚かは不明)、2人の娘との3人暮らし。姉の志賀は19歳、妹の園は17歳。宗悦は少しずつ貯めた金で高利貸しを副業にしていた。
安政2年の12月20日の午後、宗悦は何軒かの督促に出掛けるという。 今から出掛けると帰りはかなり遅くなりそうなことや、とても寒い日だったので、2人の娘は心配で明日にしなさいと勧めるが、小日向の殿様が「ずるい」ので、早く行きたいのだという。
この小日向の殿様は、深見新左衛門といい、小普請組で、至って貧乏なお屋敷に住んでいた。 奉公人は少なく、女中の役は奥方がつとめていた。宗悦が訪ねた時、殿様は珍しく在宅で、酒を飲んでいるところ。機嫌はよさそうだったが、宗悦が借金の督促に来たことを説明すると無い袖は振れぬからもう少し待って欲しいという。しかし、この借金はすでに3年越しになっており、宗悦も引き下がらない。「私はこういう不自由な身体で根津から小日向まで、杖を引っ張って山坂を越して来るのでげすから・・・」、「天下の直参の方が盲人の金を借りて・・・馬鹿馬鹿しい・・・」と大声になっていく。
新左衛門:「このたわけめ、何だ、無体の事を申さば切り捨てたってもよい訳だ」
宗悦:「さア切るなら斬って見ろ」
新左衛門:「ナニ不埒な事を」「この糞たわけめが」
峰打ちのつもりだったが、あやまって宗悦を肩先から深く斬りつけてしまった・・・。
この一件が表向きになるとまずいと考えた新左衛門は宗悦の死骸は油紙でしっかり二重に包み、封印をつけることに。下男の三右衛門に葛籠(つづら)を買いに行かせ、そこに宗悦の死骸を包んだ油紙を積んでどこかへ捨ててくるようにと命じる。三右衛門には手間賃に十金を渡すので、そのまま故郷の下総(しもうさ)へ帰れという。ただし、本件が漏れたら、貴様の口から漏れたものと思い、尋ねだして手打ちにするからそう思えとのこと。
仏の入った葛籠を背負うのは気味の悪いもの。三右衛門は淋しいところを歩くのはこわいので、にぎやかなところばかりを歩いている。この調子なので、どうしても捨てることができないでいたが、どこをどう歩いて捨てたのか、三右衛門は下総へ帰りついた。
葛籠は根津七軒町の秋葉の原に置かれていた。この葛籠をめぐって、近隣の長屋の住人(上方者の夫妻)、家主夫妻、居候たちの間で滑稽な争奪戦が行われる。葛籠の中身はどんなお宝かと期待をふくらませていると、なんと死骸が・・・。娘のお園が父・宗悦の死骸であることを確認。これがこれから始まる怪談ばなしの発端。