あれは、ある暑い夏の日の事だったー
気温は40度近くあろう、ジリジリと照りつける太陽が暑く持っていたアイスやチョコレートがどろりと溶けるくらいの暑さだった

幼き頃の僕は、病気がちだった母を見舞いに行っていた

ここの病院は静かだー

茶色と白の壁や家具、オレンジのカーテンで統一されており
落ち着いていた
他の患者さんは、アニメキャラクターのぬいぐるみなんかを持ち込んでいたが、
母は何一つ持ち歩いてなくまるで死を悟っているかのような部屋で、見舞いに行った
これが最期の言葉になるとも知らずに

「あら、悠斗、来てくれたのね?お母さん嬉しいわ」

弱々しくか細い今にも消えそうな声で言っていた

「お母さん、いつ退院出来るの?」

「そうね、明日には退院出来るわ、だから、待っててちょうだいね」

(ダメだ、お母さん、死んじゃう…)

幼くして母の死を実感した

ゴクリと喉元を鳴らした

心臓の鼓動がバクバクとうるさい
母の心臓の音が弱々しくなって行ってるのが心臓に耳を当てて聞いてると

「あら?悠斗今日は珍しく甘えん坊さんなのね?
悠斗生まれてきてくれてありがとう愛しているわ、私の宝物…」

頭をそっと弱々しい手で撫でるとするりと落ちていき、母は笑ったように眠りそのまま二度と目が覚めなかったー

「おかあさーん!やだよー、やだよー!」

僕の泣き声は二週間しかないセミの大合唱に上手い具合にかき消されたー

あれから20年が経ち、僕は結婚して子供が産まれた
「ぱぱー、抱っこ!」

ぎゅっと力強く小さな手が首にぶら下がる

「おやおや、ゆかりは甘えん坊だな誰に似たのかな?」
「あら?それはあなたの方でしょ?あなた」
「ははっ、一本取られたな、でも顔は美人なアカリそっくりだ」
「あらっ、嬉しいわ、あなた」

俺は誓う、死ぬまでこの二人を愛そうと…
そう強く誓った暑い夏の日の事だったー

終わり