選手・指導者のためのアンチドーピング講座2  ~使える薬、使えない薬~ | Dr.Fの格闘クリニック

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格闘技ドクター・二重作拓也の「強くなる処方箋」

●使える薬、使えない薬

○試合前に風邪をひいてしまった

 試合前の追い込み期間は体調を崩しやすい時期でもあります。強くなる過程は、体を苛め抜いて体力を消耗させ、超回復させるということですから、追い込めば追い込むほど、免疫力も低下して風邪をひきやすくなってしまいます。減量があって栄養が不足する場合、そのリスクはさらに上がってしまいます。

 もし試合前に風邪をひいてしまった場合、気をつけなければならないのは薬の選び方。おそらく薬局・ドラッグストアで薬を購入する場合、熱・のど・咳・鼻水などの諸症状を和らげる「総合感冒薬」を選ばれる方が多いと思いますが、総合感冒薬の中には、ドーピングに引っかかってしまうものが含まれているケースがあります。

 例えば、パブロンや新ルルシリーズには、交感神経興奮作用のある麻黄、エフェドリンが含まれていますし、漢方薬で有名な葛根湯や、葛根湯の抽出液であるカコナールにも同じく禁止物質が含まれています。精神の高揚作用を認め、疲労を感じにくくなります。これらは、試合前に服用してしまうと、ドーピング反応陽性と出てしまいますので十分、気を付けてください。安心して使える総合感冒薬としては、新エスタックWや新エスタック12、ストナアイビー錠剤(ストナアイビー顆粒は使えないので注意。似た名前でややこしいですね。)など。


咳どめにも引っかかるものがあります。気管支拡張などのベータ2作用のあるトリメトキノール、メトキシフェナミンが配合されている薬剤(エスタック子供鼻炎用シロップ、コルゲンコーワ咳止めカプセル、エスエスブロン錠Z・液Z、など)は使えません。

病院を受診して処方してもらう場合は、総合感冒薬としてPL顆粒、咳止めとしてメジコンやリン酸コデイン、去痰剤としてビソルボン、ムコソルバン、ムコダイン、解熱鎮痛剤としてアセトアミノフェンやロキソニン、ボルタレンなどが推奨されます。私も、選手が風邪をひいた場合に「試合前でも使える薬」として、これらの組み合わせをよく処方しています。


○関節や筋肉を痛めてしまった

 追い込み期間のスパーリングや組手で、筋肉や関節を痛めてしまったという場合や、慢性的な炎症が続いている場合には、炎症を抑えることで治癒が期待されます。この際に気をつけたいのが、ステロイド。ステロイドは炎症を劇的に抑える作用があるため、病院によっては時にステロイドの注射を薦められる場合がありますが、当然、ドーピング禁止物質ですから、気を付けてください。

 また、塗り薬や貼り薬でも、インドメタシンなどの非ステロイド系の抗炎症剤を使用したほうが無難です。たまに「ステロイドは、皮膚、耳、鼻、目への塗布はドーピング検査に問題ない」とされる記述も見かけますが、投与量や投与期間によっては、陽性と出ない保証はありません!炎症を抑える際は、非ステロイド系のものにこだわる。受診の際はきちんと非ステロイド系の処置や処方を希望する。これがドーピングを避ける「ファイター、アスリートに正しい治療」となります。


○喘息や痛風、高血圧、糖尿病などの持病がある 

 もともと喘息持ちで、克服するために格闘技や武道を始めたという方もいらっしゃると思います。喘息薬のひとつ、気管支拡張薬であるβ2刺激薬は禁止物質です。

また痛風の治療薬である尿酸排泄薬、プロベネシドも禁止物質です。高血圧でよく処方される利尿剤、糖尿病で血糖降下に使用されるインスリンも禁止物質になります。喘息や痛風などの慢性疾患があり、競技者である方は自分の使用している薬がドーピングに引っかかるものかどうか知っておいてください。主治医とよく相談をして、できることならドーピングに引っかからない治療に変えてもらうのがベストです。治療上、使用がやむを得ない場合は、公式の使用の申請(TUE申請)を行うしかないでしょう。