お雪の手紙 | arigioari

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現在の徒然なる思いの、寄せ集めです。

ごらんなさい、水底には一面に絹糸を靡かしたような藻草が生えているではありませんか。その細い柔らかな藻草の上に、星のような形をした真白な小さい花が咲いて、その花だけが、しおらしい色をして、水の上に浮び出しているではありませんか。

その白い藻の花の中に絡まって、人間の死骸が一つ、仰向けに沈んでいるのです。なんと恐ろしいこと。

声を限りに叫ぼうとしましたが、その瞬間に気がついて見ますと、何のことでしょう、それは死骸でも、人の面でもありません、わたしというものの姿が、藻の花の間の水に映っていたのです。


「大菩薩峠-流転の巻 一部省略」中里介山