平安時代好きブロガー なぎ です。
ただいま、ゆっくり「源氏の物語の姫君と花」について書いているところです。
どうぞお付き合いくださいませ。
源氏物語の姫君と花ー③花散里とタチバナー
今回ご紹介するのは花散里と呼ばれる女君と橘の花が香る邸についてです。
この女君は、亡き桐壺院の女御のひとりだった麗景殿の女御の妹で三の君として登場します。姉が女御だったということは大臣家の姫君であることがわかります。
光源氏の妻のひとりとして、のちに光源氏の二条東院に迎えられ、六条院の完成後は夏の町に住みました。光源氏の息子の夕霧や光源氏がひきとった玉鬘を養育したことから人柄がよく信頼される女性だったようです。
【三の君こと花散里の系図】
以下の歌は、三の君がまだ二条東院に迎えられる前…中川というところに住んでいた頃、光源氏が姉の麗景殿の女御へ詠んだ歌です。
橘の香をなつかしみほととぎす 花散る里をたづねてぞとふ
[訳:昔の人を思い出させる橘の香りが懐かしいので、ほととぎすは花の散るこのお邸を捜してやってきました。]
【本文と訳の引用:渋谷栄一先生によるホームページ『源氏物語の世界』 】
この歌によって、三の君は「花散里」と呼ばれるようになり、『源氏物語』第11帖のタイトルが「花散里」となったようです。
【写真:タチバナの花 写真提供:写真AC】
光源氏25才の夏・旧暦5月20日の夜、麗景殿の女御とその妹の三の君…花散里を訪ねます。
恋人である三の君に会うより前に、まず麗景殿女御と対面して、亡き桐壺院の時代の懐かしい話をして、この歌を詠みました。そこから光源氏は三の君の部屋に立ち寄ります。三の君にとって光源氏の訪問は久しぶりのことでしたが、恨み言を言うのではなく、親しく過ごすのでした。
三の君こと花散里が暮らす邸は、平安京の東、中川のあたりにあり、橘の花の香りがなつかしく匂っており、ホトトギスが鳴くといった風情あるところです。
ホトトギスの鳴き声は「キョッ、キョン、キョキョキョキョ」と聞こえるような…?鳴き声のたとえとして「特許許可局」とか「てっぺんかけたか」と聞こえるともいわれています。
話が逸れますが、
花散里の邸があった中川は、現在でいうところの京都御苑の東側で鴨川の西側、梨木神社や廬山寺がある地域を指します。廬山寺は、かつて紫式部の邸宅があった場所とされています。
紫式部は自分が住む邸宅あたりを花散里の邸がある場所のモデルにしたのかもしれません。
現在、廬山寺には「源氏庭(げんじてい)」という庭があり、玄関には金ぴかの紫式部像があります。
2024年に廬山寺をお参りにいきましたら大河ドラマ「光る君へ」の影響か以前訪ねた時よりもお参りの方が多かったです。
【写真:廬山寺の紫式部像】
話をタチバナに戻しますね。
※タチバナ[橘]はミカン科ミカン属。常緑低木。広くは柑橘類の総称です。
5月から6月(旧暦5月)に白い花を咲かせ、秋に黄金色の果実をつけます。歌では「花橘」ともいいます。
タチバナとホトトギスはセットで歌に詠まれました。恋の鳥・ホトトギスを男性に見立て、橘の花を女性に見立てて、ホトトギスを誠実に待ち続ける花というイメージがあったのだとか。
『古今和歌集』の歌「五月待つ花橘の香をかげば 昔の人の袖の香ぞする」が有名で、橘の花の香りは昔を思い出させる、として親しまれていました。
花橘といえば、『源氏物語』において光源氏が建てた六条院の夏の町には花散里が住み、庭には花橘が植えられていました。
ひょっとしたら光源氏と花散里にとって、中川での思い出を共有するシンボルツリーとして、夏の町に花橘が植えられたのだとしたら素敵だなと思います。
清少納言は橘をどのように見ていたのでしょう。『枕草子』第35段「木の花は」で「橘」が挙げられています。少し長いですが角川ソフィア文庫の『新訂 枕草子』の現代語訳よりご紹介します。
四月の末や五月の初めのころ、橘の葉が濃く青いところに花がまことに白く咲いているのが、雨の降っている早朝などは、世に類がないほど風情がある様子で美しい。花の中から、実が黄金の玉かと見えて、たいそうあざやかに見えている様子などは、朝露に濡れている朝ぼらけの桜に劣らない。ホトトギスが宿る木とまで思うせいか、やはり改めて言う必要がないすばらしさだ。
橘は常緑樹です。青い葉を繁らせ、白い花を咲かせます。そんな中、秋に実った黄金の玉のような実が、寒い冬を経て、翌年の開花時期まで残っているのです。「青い葉」と「白い花」と「黄金色の実」…それらがそろっているのをあざやかだと賞賛しています。
そしてタチバナとホトトギスはやはりセットで考えられているのですね。
ちなみに『源氏物語』第35帖「若菜下」では、光源氏の妻のひとり、明石の君(明石の御方)の喩えとして「あたかも五月待つ花橘の、花も実もいっしょに折り取った時のかぐわしさを思わずにいられない。」とあり、明石の君の魅力を讃えています。
次回は、明石の姫君と藤の花についてお話します。
⇒ 明石の姫君とフジ(後日upします)









