平安時代好きブロガー なぎ です。
連載していた「源氏の物語の姫君と花」最終回です。
最後に玉鬘とヤマブキにまつわるお話。
源氏物語の姫君と花ー⑥玉鬘とヤマブキー
『源氏物語』第22帖 「玉鬘」において、歳暮に光源氏は、ゆかりの女君たちへそれぞれ装束を贈ります。
第23帖「初音」では翌年1月1日にその装束を着た女君それぞれのもとを訪ねる様子が書かれています。
以下は、光源氏が玉鬘へ贈った装束について。
曇りなく赤きに、山吹の花の細長
[訳:曇りなく真っ赤な表着に山吹の花模様のある細長]
【本文と訳の引用:『新編日本古典文学全集 源氏物語』 小学館】
真っ赤な表着(うわぎ)の上に山吹…黄色系の細長を重ねるのですから、明るく華やかですよね。
この訳では山吹の花模様とありますが、山吹重ねの細長かもしれません。
かさねの色目で山吹は、表地が朽葉(くちば)、裏地が紅梅または黄色など。いくつかの組み合わせがあるようです。朽葉は、朽ち果てた木の葉のような色でやや赤みがある黄色です。
以下の写真は、2024年に広島県立歴史博物館で開催された「源氏物語の世界展」において撮影した写真です。

【写真:再現された玉鬘の装束】
1月1日にこの装束を着た玉鬘について、「山吹のお召物に一段と引き立ってお見えになるご器量などはまことに華やか」とあります。
そして『源氏物語』第28帖 「野分」において、都に野分が来たのを先ほどご紹介しましたが、夕霧は玉鬘も垣間見てしまいます。
八重山吹の咲き乱れたる盛りに露かかれる夕映えぞ、ふと思ひ出でらるる。
[訳:八重山吹の咲き乱れている盛りに露がかかって、それに夕日のあたっている美しさを、ふと思いうかべずにはいられない。]
夕霧は玉鬘の姿を八重山吹にたとえました。ただのヤマブキではなくヤエヤマブキにたとえています。八重咲きは花弁が多く、一重咲きよりも華やかです。

【写真:ヤエヤマブキの花/写真提供:写真AC】
野分の後、夕霧は紫の上を樺桜にたとえて、玉鬘を八重山吹にたとえて、明石の姫君を藤の花にたとえているのですよね。この時、季節は秋なのですが、夕霧の衝撃は大きく、春の樺桜や八重山吹、藤の花を思い出さずにはいられなかったようです。
『源氏物語』第31帖「真木柱」において、玉鬘は思いがけず鬚黒の大将と呼ばれる男性と結婚します。
光源氏は残念に思いますが仕方がありません。以下は結婚して六条院を離れた玉鬘を思って、光源氏が詠んだ歌です。
「思はずに井手のなか道 へだつとも いはでぞ恋ふる山吹の花」
[訳:不本意にも井出の中道が、わたしたちの仲を隔ててはいるけれど、心の中では山吹の花―あなたを恋い慕っているのだ]
「井出」は山吹を連想させる歌枕です。現在の京都府の南にある綴喜郡井出町の玉川は山吹の名所として知られていました。現在も井出町の玉川には地元の方々によって山吹が植えられ大事にされているそうです。
この歌では、「井出のなか道」の「なか道」を鬚黒にたとえ、「山吹の花」を玉鬘にたとえています。
この時、38才の光源氏は、鬚黒と結婚してしまった24才の玉鬘を忘れようとしつつも、忘れることができない…玉鬘を恋い慕う気持ちを誰に聞かせるというのではなくこの歌を詠みました。

【写真:ヤマブキの花/写真提供:写真AC】
このように玉鬘は山吹の細長が似合い、八重山吹の花に喩えられる明るく華やかな容姿であり、鬚黒との結婚後は山吹の花に見立てられ思いだされる存在になるのでした。
※ヤマブキ[山吹]:バラ科ヤマブキ属。落葉低木。
4月から5月に花を咲かせます。
ヤマブキの一重咲き品種の花は黄色、八重咲き品種はやや赤みが強い黄色となります。
一重咲きの花弁は5枚なのに対して、八重咲きは花弁が7枚以上あるそうです。
一重咲きのヤマブキは秋に実がなりますが、八重咲きのヤマブキは実がなりません。
八重咲きのヤマブキは、一重咲きのヤマブキのおしべが花びらに変化し、めしべは退化した突然変異です。自然界ではとても数が少ないと言われています。
『枕草子』第65段「草の花は」において「八重山吹」の名前だけが挙げられています。ただの山吹ではなく八重山吹の名前を挙げているのは、ひょっとしたら八重咲きは一重咲きよりも希少で華やかなので、清少納言の目に敵ったのかもしれません。
・・・というわけで、紫の上と桜、夕顔、花散里と橘、明石の姫君と藤、玉鬘と撫子、そして玉鬘と山吹について、それぞれ見てきました。
『源氏物語』では紫式部の鋭い観察眼により、花そのものが持つイメージや花の名前を持つかさねの色目によって登場人物がより豊かに表現されていますよね。
『源氏物語』が書かれて1000年以上経った今も尚、『源氏物語』に出てきた同じ名前の花々を見て季節の移ろいを楽しめるのは素敵なことだと思います。
【参考にさせていただいた本】
秋山虔・小町谷照彦 編/須貝稔 作図『源氏物語図典』小学館 1997年
河添房江・津島知明 訳注/清少納言 著『新訂枕草子 現代語訳付き』角川ソフィア文庫 2024年
倉田実 編『ビジュアルワイド 平安大事典 図解でわかる「源氏物語」の世界』朝日新聞出版 2015年
砂崎良 著・鈴木衣津子 絵『源氏物語ものことひと事典』 朝日新聞出版 2024年
清水婦久子 『光源氏と夕顔 ―身分違いの恋―』新典社 2008年
長崎盛輝『かさねの色目 平安の配彩美』京都書院 1996年
中野幸一 編『新装版 常用 源氏物語要覧』武蔵野書院 2007年
畠山大二郎『平安朝の文学と装束』新典社 2016年
廣江美之助『源氏物語の庭・草木の栞』城南宮 2008年
八條忠基 『詳解『源氏物語』文物図典ー有職故実で見る王朝の世界ー』平凡社 2024年
八條忠基 『有職植物図鑑』平凡社 2022年
本田一泰 『源氏の小径~花びき源氏物語~』大垣書店 2024年
『源氏物語の鑑賞と基礎知識』シリーズ 至文堂
『源氏物語①』~『源氏物語④』 新編日本古典文学全集20~23 小学館
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