最終話 「大豆の巻」
★AM1242ニッポン放送★
☆The Voice of Farmers☆
味噌樽を空ける三兄弟。
千葉県南房総市。
丘の上に
小さな農家レストランが
あります。
太陽「やべ」
苗太「だろ?」
水夏「どうしよ」
そこでは
両親を亡くした
三人の兄弟が働いています。
太陽「もう一年だもな」
苗太「そりゃなくなるよな」
水夏「味噌は毎年オフクロが作ってたからなぁ」
太陽「思い出すなあ。毎年何時間も掛けて大豆をコトコト煮てさ。窓ガラスが真っ白に曇って、ウチん中がなんとも言えない良い匂いで包まれるんだよ。あったかくて懐かしい、オフクロみたいな匂いにさ」
苗太「…うん、思い出すなあ」
水夏「…俺も」
太陽「よし、じゃあ兄弟の気持ちもひとつになったところで、水夏」
水夏「うん」
太陽「ひとっ走りスーパー行って、味噌買って来い」
水夏「分かった!…って作るんじゃねえのかよ?」
太陽「作れるわけないでしょ。俺たちオフクロじゃないんだから。買って来なさい」
水夏「太陽ニィ」
苗太「買って来い、水夏」
水夏「苗ニィまで、何言ってンだよ」
苗太「しょうがねえだろ、味噌ないと店だって開けらんねえんだし」
水夏「だから作ろうよ。大豆なら去年の秋に収穫した奴がまだ残ってるし」
太陽「あれは、もやしにしよう」
苗太「あ、いいね、豆もやし。ナムルなんかにして、冷たいビールをキュッとさ」
水夏「もやし?」
太陽「おいおいおい、君は農家の息子なのにそんなことも知らないのかい?大豆ちゃんはね、年を取るとヒゲが生えてもやしになるんです。ついでに大人になる前は枝豆っつってね、これがまた冷たいビールに合う合う」
苗太「そうなんだよ」
水夏「いいだろ今ビールのツマミなんかどうでも」
太陽「重大な問題ですよ、苗太くん教えてあげなさい」
苗太「いいですか、水夏くん。飲食店の売り上げというのは、なんと7割がアルコールなんです。7割ですよ?」
水夏「うちはやってないだろ、アルコール」
苗太「そうだっけ?」
太陽「かもしんない」
水夏「何なんだよいっつつも仲悪いクセに妙に話合わせてさ。俺が聞きたいのはどうして俺たちで味噌作らないのかってことだよ」
太陽「じゃあ聞くけど、味噌作るってことは、オフクロの味噌が入ってたこの味噌樽を俺たちで使いましょうってことなんだな?」
水夏「え?」
苗太「オフクロの味噌樽が空っぽになったところでガシガシ洗って、そこに俺たちが作った新しい味噌を入れちまおうってことなんだな?」
水夏「…やっぱ無理かな、俺たちには」
太陽・苗太「…」
表の土田農園の
大豆畑では、
パティシエの柿沢安耶さんが、
大豆農家の石井好一さん、
「宇宙大豆プロジェクト」で
実験船「きぼう」に
地大豆を乗せた
宮坂醸造の杉浦孝則さんに、
味噌の原料にもなる、
大豆の話を訊いていました。
太陽「聞いたか?大豆が宇宙だって」
苗太「すげえーな、じゃあ英語喋れンだな」
水夏「英語?」
苗太「だって、宇宙空間は全員英語なんだろ?」
太陽「…お前ね」
水夏「ねえ、味噌って英語で何て言うんだっけ?」
太陽「味噌は…大豆がソイだろ?」
水夏「だったらソイ…ソイジュース?」
苗太「ジュースは冷たいモンだろ?」
と、窓を叩く音。
太陽「火気厳禁!」
窓を空けたのは、
柿沢さんである。
柿沢「柿沢です」
水夏「どうも」
苗太「どうでした、うちのソイ…大豆畑?」
柿沢「うん、大豆農家の石井さんも、おいしい味噌ができそうですねって」
水夏「…味噌か」
太陽・苗太「(溜め息)」
柿沢「どうかしたの?」
太陽「いや、味噌は英語で何て言うのかなとか…イソフラボンじゃね?」
水夏「それ栄養素だから」
苗太「大豆も地球って自分と同じくらい丸いんだなって思ったのかなとか」
柿沢「(笑って)何それ。そうだ、ねえ、大豆の花言葉って知ってる?」
水夏「花言葉?」
苗太「大豆に花言葉なんてあるんですか?」
太陽「あるよそりゃ、花だって咲くし」
水夏「あれ?」
苗太「夏季講習…じゃなくて柿沢さんもういなくなっちゃった」
太陽「たく、ホントにミツバチみてえな人だな」
水夏「てか、大豆の花言葉って何なんだろう?」
Na『千葉県南房総市。丘の上に小さな農家レストランがあります』
太陽「よし」
苗太「何だよいきなり」
太陽「蔵から大豆出して来い」
水夏「え?」
太陽「味噌作るぞ」
そこでは
両親を亡くした三人の兄弟が
働いています。
水夏「でも、太陽ニィ」
太陽「作るんだよ、俺たち三人で」
苗太「でもそしたら、オフクロの味噌樽…」
太陽、
マジックで紙に
何やら書き綴った。
太陽「これが大豆の花言葉でもか?」
苗太「…これが、大豆の?」
一番優しいのが、
実家を出て、
居酒屋の厨房で
アルバイトをしながら
役者を目指していた
次男苗太。
水夏「豆腐、醤油、味噌…なんにでもなる大豆にぴったりな花言葉だね」
一番素直なのが、
大学に行きながら
畑を手伝っていた
三男水夏。
太陽「いつまでも味噌味噌…じゃなくてめそめそしてるんじゃなくてさ、俺たちも大豆みてえに生きなきゃ、死んだオフクロたちも安心できねえだろ」
そして、
一番頼りがいがあるのが、
5年前、家出同然で
旅に出たまま、
行方知れずだった
長男の太陽。
苗太「よし、最高の味噌を作るぞ!」
ジューサーの
スイッチを入れる。
水夏「苗ニィ、ジューサーに掛けたら豆乳になっちゃうよ!」
太陽「茹でた大豆を藁に入れて、そこに納豆菌を…」
水夏「それじゃ納豆だって」
等と、味噌作りに大騒ぎする三兄弟。
『可能性は無限大』
それが、
大豆の花言葉です。