第六話「キュウリの巻」

★AM1242ニッポン放送★
☆The Voice of Farmers☆
★次回は6/20（日）夜9：00★

太陽「古今東西、キュウリの料理！」

千葉県南房総市。

丘の上に

小さな農家レストランが

あります。

水夏「カッパ巻き」
苗太「オイキムチ」
太陽「ぬか漬け」

そこでは両親を亡くした

三人の兄弟が働いています。

水夏「ピクルス」
苗太「ちくわキュウリ」
太陽「キュウリパック」

この如何にも無責任なのが、

5年前、家出同然で

旅に出たまま、

行方知れずだった

長男の太陽。

水夏「それ料理かよ！」
苗太「キュウリ夫人」

この如何にも頭が悪そうなのが

実家を出て、

居酒屋の厨房でアルバイトを

しながら役者を目指していた

次男苗太。

水夏「それは人だろ！」
太陽「ごちゃごちゃ言わないの」
苗太「君の番よ」
水夏「キュウリの酢の物」

そして、一番のしっかり者が、

大学に行きながら

畑を手伝っていた三男水夏。

太陽「梅キュウリ」
苗太「えっと…」
太陽「ここで問題です！」
水夏「問題？」
太陽「今挙がったすべてのキュウリ料理に共通することはなんでしょう？」

苗太「共通点？…キュウリってことだろ？」

太陽「違う違う違—う！」
水夏「はい！」
太陽「はい、水夏くん」
水夏「そこにキュウリパックとキュウリ夫人も入るんですか」
太陽「キュウリパックは含まれるけど、キュウリ夫人は含みません！このバカモンが！(苗太を叩く)」
苗太「叩くなよ！」
水夏「…キュウリパックは含む？料理じゃないのに？」
太陽「ちょいちょいちょいちょい、君たちの目は節穴ですか？答えはさっき挙げたすべてのキュウリ料理に使われていたキュウリが全部ナマだってこと。ちょっと考えたら分かるでしょうが？」
苗太「ナマ？」
太陽「そうナマ。すなわち一切の加熱処理をしていませんってことなんです。これがどういうことか分かるかい君たち？」
水夏「勿体ぶらないで教えてよ、太陽にぃ？」
太陽「つまり…数ある野菜の中でキュウリだけが、一切火を通さず生でしか食べられていないってこと」
苗太「…確かに」
太陽「そして、もしも火を通したキュウリ料理を編み出したら」
水夏「編み出したら？」
太陽「俺たちは億万長者だってことだ！」

オーブンのチンという完成音。

苗太「キュウリの丸焼きです」
太陽「マズ！」

苗太「キュウリの素揚げです」
水夏「…最悪」

苗太「キュウリの煮物です」
太陽「…喰えるワケねえだろ！」
苗太「あんたが作れっつったんだろーが！」
水夏「まあまあまあ」
苗太「…やめようぜもう、無理なんだよ、生じゃないキュウリ料理なんてよ」
太陽「じゃあ聞きますけど、君たちはこの店がこのままで良いってのかい？農家レストランとは言え、出すのものはどこにでもある、可もなく不可もない味の料理ばかり」
苗太「だと？」

太陽「俺は嫌だよ。ここにしかない、ここでしか食べられない料理出してさ、俺たち三兄弟にしかできない、オンリーワンの店にしたいって、俺はいつだってそう思ってるよ。でなきゃ死んだオヤジやオフクロに申し訳ないってさ」
苗太「…アニキ」

水夏「…あ、そ、そういえば柿沢さんがね、東京におもしろいシェフがいるって言ってたよ」
太陽「…おもしろいシェフ？かきくけこが？」
水夏「柿沢さんです」
苗太「おもしろいシェフって？料理しながら漫才するとか？」
水夏「なわけないでしょ。畑まで野菜見に行ったりして、色々研究しながら日々あたらしい料理を生み出そうって取り組んでるんだって。確か原宿にあるブラッセルズって店だったと思うよ」
太陽「俺東京行って来る！」
　　　　　

東京原宿、

おいしいキュウリ料理を

教わりに、

ブラッセルズ原宿店へ

出かけて行く太陽を

見送る２人。

太陽「ただいま！」
水夏「お、おかえり、太陽にぃ」
太陽「いや－、すげーぞ、東京のシェフは」
苗太「つ、疲れただろ？風呂入れよ、沸かしといたからさ」
太陽「いやいや、その前にキュウリの話をさ」
水夏「キュウリ、キュウリだよね、冷蔵庫でキンキンに冷やしてあるから。熱い風呂ん中で冷たいビールと一緒にさ」

意気揚々と店に戻った太陽を、

二人の弟がとても複雑な顔で

迎えたのは

言うまでもありません。