第二話「筍の巻」
★AM1242ニッポン放送★
☆The Voice of Farmers☆
★日曜夜9:00~放送中★
今は昔、竹取りの翁というものありけり…。
「竹取物語」の一節がぴったりな、夜明け前の竹林に、
月明かりを頼りに、斜面を掘り続ける三人の若者の姿がありました。
水夏「いい?土の中を探るように、少しずつね。傷つけないよう、丁寧にね」
苗太「つーか、掘ったらすぐ下茹でしなきゃいけないんだろ?お湯沸かしとかなくていいのかよ?」
太陽「朝堀りの筍は生でも喰えるんだよ。たくこんな奴に厨房任せして大丈夫なのかよ。中学生にでも任した方がいいんじゃねーの、チューボーだけに。なんちてー」
苗太「ンだと?じゃあ、あんたは筍とタケノコ族の違いも説明できるってのかよ?」
この如何にも頭が悪そうなのは、
実家を出て、居酒屋の厨房でアルバイトをしながら
役者を目指していた次男苗太。
太陽「こんばんは。タケノコ直人です。笑いながら怒る人やります」
この如何にも無責任なのが、
5年前、家出同然で旅に出たまま、
行方知れずだった長男の太陽。
水夏「くだらないこと言ってないで、二人とも手ぇ動かしてよ。日が昇っちゃうだろ」
そして一番のしっかり者が、大学に行きながら畑を手伝っていた三男水夏(すいか)。
太陽「だから指図すんなっつってんだろ?」
苗太「なんで?なんで日が昇ったらダメなの?」
水夏「太陽ニィ、教えてやって」
太陽「だから指図すんなって!」
これは、両親が残した農家レストランを受け継いだ土田三兄弟の物語です。
水夏「ひょーっ!でかいの掘れたよ!不発弾ぐらいあるよ!」
太陽「…何だその分かりずらいたとえ?」
苗太「だから、なんで日が昇るとダメなんだよ?」
太陽・水夏「あ?」
苗太「だって竹取物語じゃあるまいし。何もこんな夜が明ける前の暗いうちに筍掘りなんかしなくてもさ」
太陽「あー情けない。ホント情けない。たく、君はそれでも農家の息子かね?」
苗太「あン?」
太陽「筍ってのはな、柔らかい土の中にいる時が一番ウマイの。お日様浴びると緊張して堅くなっちゃうの。常識っしょ。想定内っしょ。試験範囲っしょ」
苗太「ホントにてめえはムカつく…!」
三人は今日、畑の裏山で育てていた筍掘りにやって来ていました。
苗太「…育ててたの?」
水夏「え?」
苗太「いや、今女の人の声で、筍育ててたって」
太陽「女の人?」
苗太「筍って勝手に生えて来るんじゃないの?」
水夏「何だよ、女の人って?」
苗太「いや、そっちじゃなくて」
太陽「お前が言い出したんだろ、女の人って」
苗太「俺が聞きたいのは筍は育てるモンなのかってことだよ」
太陽「俺が聞きたいのは女の人がいンのかってこと!芸能人で言えば誰に似てて、胸は何カップで、彼氏募集中なのかってことだよ!」
水夏「…女の人って、柿沢さん?」
太陽「牡蠣グラタン?」
水夏「じゃなくて柿沢さん。ほら、あそこ。女の人と一緒に」
太陽「女?」
苗太「だから教えろよ?筍は野菜みたいに育てるモンなのかよ!」
この日、パティシエの柿沢安耶さんは、
自然農法で筍を育てている、
川崎の横山農園の横山紀恵子さんとともに、
筍の収穫が最盛期を迎えていた土田農園の裏山を訪れていました。
レストランの厨房で、料理をしている苗太。
苗太「知らなかったなぁ、筍が育てるものだなんて」
太陽「分かってンのかホントに、春を作る仕事なんだぞ」
苗太「ちょっと調理中だから黙っててくれる?」
真剣に料理を続ける苗太。
太陽「分かってンのかね、ホントに」
水夏「太陽ニィ」
太陽「…俺だってここ出る前は分かってなかったよ」
水夏「え?」
太陽「でも外出て色んな畑見て回ってようやく分かったんだ。この筍だって、短い旬の為に一年間丹精込めて育ててくれてる人がいるから、だから俺たちは春を味わえるんだって」
水夏「…」
太陽「春には春の、サンタクロースがいるんだって」
水夏「春のサンタクロース、か」
そこに料理を運んで来る苗太。
苗太「そういうこと伝える為にこの店作ったんだろ、オヤジたちは」
水夏「お、うまそー」
苗太「筍ごはんに若竹汁、春の筍尽くしだ」
水夏「いただきまーす。うんめ。やっぱ朝堀りは違うね」
太陽「ま、作った奴の腕はともかく素材がいいからな。うーん、まさに春の宝石箱やー」
苗太「フン」
水夏「とにかく頑張ろうよ。うちの筍食べなきゃ春が来たって感じしないって言ってくれてるお客さんたちの為にもさ」
苗太「春のサンタになりますか」
太陽「ところで、お前ら知ってるか?旬っていったい何日間のことを差してるか」
水夏「旬?」
苗太「小栗旬?」
太陽「バカタレ。答えは10日だ」
苗太「たった10日?」
太陽「筍ちゃんは芽を出したらたった10日で緑色の竹になっちゃうんだ。それが旬って言葉の由来だって言われてンだ」
水夏「そっか、だから、筍って字、竹かんむりに旬だもんね!」
太陽「ピンポーン」
苗太「そっか!」
太陽「あン?」
苗太「ととのいました!」
水夏「なぞかけ?」
苗太「筍とかけまして、イイ女と解きます」
水夏「その心は?」
苗太「どちらも旬は短いです」
『ぶっとばすぞ』
苗太「え?」
太陽「だから何だよ?」
苗太「今、女の人がぶっとばすぞって」
水夏「女の人?」
太陽「どこ?誰に似てンの?何カップ?ねえ、苗太ちゃん!」
(つづく…)
★第3話は、4/25(日)夜9時~放送です