第一話「菜花の巻」 | ニッポン放送~柿沢安耶と番組スタッフのブログ~The Voice of Farmers 

第一話「菜花の巻」

★AM1242ニッポン放送★
☆The Voice of Farmers☆
★日曜夜9:00~放送中★


ニッポン放送~柿沢安耶と番組スタッフのブログ~The Voice of Farmers 

天気の良い春の午後。
菜の花畑で食用菜花を収穫している水夏苗田


水夏「何やってンだよ、苗ニィ。菜花は脇目だけを摘めってさっき教えただろ」


ニッポン放送~柿沢安耶と番組スタッフのブログ~The Voice of Farmers 

千葉県南房総市。海を望む小高い丘の上の畑に、小さなレストランがあります。


苗太「ンなこと言ったってさあ。兄ちゃんどれが脇毛だかさっぱりだもんよ」
水夏「脇毛じゃなくて脇目!花が咲く前の蕾だけを摘むんだよ、もう!」


店の名は、『The Voice of Farmers』。
都会の人たちにも、農家の幸せや本当のおいしさを味わって欲しい。
早くから有機農業に取り組んでいた土田夫婦が、
そんな願いを込めて、三年前に開業した農家レストランです。


苗太「…水夏は偉いよなぁ」
水夏「いきなり何よ」
苗太「だって、大学行きながら、そうやってオヤジたちの畑手伝ってたんだろ」
水夏「…仕方ねえじゃん。上が二人ともとっとと出てっちまったんじゃ」
苗太「…わるぃ」
水夏「…ま、就職難の今思えばやってて良かったって感じだけどね」
苗太「…だな」
水夏「…それに」
苗太「…ん?」
水夏「…オヤジやオフクロが死んでも、畑は生きてるからさ」


そう、不慮の事故で二人は他界。

残されたのは、大学に行きながら畑を手伝っていた三男・水夏(すいか)

実家を出て役者を目指していた次男・苗太

それと…


ニッポン放送~柿沢安耶と番組スタッフのブログ~The Voice of Farmers 

苗太「俺、手伝ってやってもいいぞ」
水夏「え?」
苗太「…ひとりじゃ、店の方まで手ぇ回ンないだろ」
水夏「でも、苗ニィ料理なんて」
苗太「役者だけじゃ喰えないから、ずっと居酒屋の厨房でバイトしててさ。たく、芝居より料理のがうまくなっちまったよ」
水夏「苗ニィ」


それと…
畑に踏み入るもうひとつの足音。


水夏「しっ!…たぬきだ」
苗太「たぬき?」
水夏「夜になると畑に盗み喰いしに来るんだ」
はてなマークはてなマーク「まだ夜じゃねーぞー」
苗太「喋った!」


菜花を掻き分けて、姿を現すひとりの男。


太陽「誰がたぬきだよ」
水夏「太陽ニィ!」
苗太「…アニキ」
太陽「いやあ、良い天気だねー、ぽかぽかだねー、菜花日和だねー」


それと、5年前、家出同然で旅に出たまま、行方知れずだった長男・太陽の三人だけでした。



仏壇のりんを鳴らし、手を合わせる太陽


苗太「何なんだよ今頃、葬式にも顔出さねえでよ」
太陽「お前ら知ってるか」
水夏「え?」
太陽「ホントは菜花なんて名前の花ないってこと」
苗太「つーかこっちが訊いてンだろ」
水夏「どういうこと、太陽ニィ?」
太陽「いいか?」
苗太「だからよくねえって」
太陽「菜花ってのはただのアダ名なんだ」
水夏「アダ名?」
太陽「一般に菜花って呼ばれてンのは、アブラナ、セイヨウアブラナ、カラシナの三種類。花はどれもそっくりで見分けがつかないんだけど、葉の特徴で見分けることができるんだ。うちのはカラシナだな」
苗太「だから何なんだよそれが」
水夏「太陽ニィ、なんでそんなこと」


立ち上がり、カーテンを開けて窓の外を見る太陽


ニッポン放送~柿沢安耶と番組スタッフのブログ~The Voice of Farmers 

太陽「おい?」
水夏「ん?」
太陽「誰だ、あの畑にいる女の人」
苗太「そらすなよ話」
水夏「あー、柿沢さんだよ」
太陽「柿の葉寿司?」
水夏「じゃなくてパティシエの柿沢さん。オヤジたちの野菜使って、スイーツ作ってくれてたんだよ」
苗太「てか、いいのかよ?勝手に摘んでるじゃんかよ」
水夏「いいんだよ、柿沢さんは。オヤジがミツバチみたいな人だからって」
太陽「ミツバチ?」
水夏「そ。ミチバチってあちこちの畑飛び回って、甘い蜜作り出すだろ。受粉もしてくれるし。柿沢さんもあちこちの畑飛び回って、甘いスイーツ作ったり、農家に実りのある何かをくれる、だからミツバチなんだって」
苗太「ミツバチか」
太陽「あれ!もうひとりいるぞ」


この日、パティシエの柿沢安耶さんは、NPO菜の花エコプロジェクト埼玉代表の
榊原京子さんとともに、菜の花が咲き乱れる土田農園を訪れていました。
菜の花エコプロジェクトは、“見て 食べて 車が走る菜の花畑”を目指し
バイオディーゼル燃料を作っているのです。


水夏「太陽ニィ、知ってた?菜の花で車が走るなんて」
太陽「当たり前だろ」
苗太「嘘に決まってンだろ」
太陽「知ってたっつーの。つーか、お前らこそ何だよ。菜の花の種類すら知らなかったじゃねーか。それだけじゃねーぞ。ハクサイやブロッコリー、わさびやキャベツ、大根だって菜の花を咲かせるアブラナ科の植物だし、あれだぞ、一般に花の蕾には、植物の栄養が詰まってンだけど、菜の花はその部分が丸々喰えるから効率良く栄養が取れるんだぞ。アルカロイドがたくさん入ってっから、花粉健康法っつって便秘やストレス解消、疲労回復にも効果があンだぞ」
水夏「…すげぇ」
苗太「…」
太陽「たく、そんなんでここ継いでやってけると思ってンのかよ」
苗太「てめえこそ何なんだよ!畑なんかやってられっかって、オヤジと喧嘩して家出てったクセに!何今頃ンなってノコノコ戻って来てンだよ!」
太陽「…勉強してたんだよ」
苗太「…勉強?」
太陽「…外出て、畑がどんなに大事かって気づいて、ンで全国の畑飛び回って、俺なりに勉強してたんだよ」
水夏「…太陽ニィ」
太陽「…なのに死んじまいやがって」
水夏「…」
太陽「一緒に、やりたかったのによ…」
苗太「…フン」


立ち上がり、キッチンに行く苗太


水夏「苗ニィ?」


ニッポン放送~柿沢安耶と番組スタッフのブログ~The Voice of Farmers 


鍋に火をつけ、パスタを入れる。
フライパンでニンニク、唐辛子、菜の花を炒める。
最後に茹で上がったパスタをフライパンに入れる。
そして、皿に盛った菜の花のペペロンチーノを差し出て…


苗太「継げるか継げねえか、これ喰って判断して貰おうじゃねえか」
水夏「これ」
苗太「菜花のペペロンチーノだよ」
太陽「…良い度胸じゃねえか…、まだまだだな。苗太くん、君は菜花本来の旨味ってのが分かってないねー」
苗太「ンだと?」
水夏「なんで菜花の蕾に栄養あるか知ってるかよ?」
苗太「あ?」
太陽「さっきも言っただろ。花を咲かせる力を貯め込んでるからだよ」
水夏「だから、食べた奴がひと花咲かせろって」
太陽「あ?」
水夏「それが菜花の命を頂いた人間の使命だって」
苗太「…」
水夏「…柿沢さんがそう言ってたんだ」


水夏「ひと花咲かせようよ」
太陽「…」
水夏「…死んじまったオヤジとオフクロの為にも」
苗太「…」
水夏「兄弟三人、仲良くさ」
太陽「…か、柿沢さんがそう言うなら」
苗太「…しょうがないな」
水夏「よーし!そうと決めれば開店準備だ!太陽ニィは畑で収穫!苗ニィはキッチンで下ごしらえ!急いで!時間ないよ!」
苗太「偉そうなんだよ!」
太陽「末っ子のクセに指図すんなこの!」


千葉県南房総市。海を望む小高い丘の上の畑にある、小さなレストラン、
「The Voice of Farmers」
そのとき、窓の外には、ここを継ぐことにした土田三兄弟の姿を暖かく見守る、
柿沢さんの笑顔がありました。


(つづく・・・)


★第2話は、4/18(日)夜9時~放送です