私が働いていたお店のボーイさん、名前を小山さんと言います。


小山さんは私が入店して半年ほどたって、同じお店で働くようになった新人のボーイさんです。



なぜか小山さんがお店に来てから、店内がどんどんキレイになっていきました。



そして朝、私たち嬢が出勤すると必ず個室のセットが完璧にされていたんです。




個室のセットというのは、嬢によってやり方が違います。



タオルをベッドに何枚敷くか、敷き方、床に敷くタオルの場所と枚数、テーブルの状態、浴室のイスの置き場所とタオルの畳み方、浴槽の枕の上のタオルの畳み方………


これら全てが嬢によって少しずつ違うんです。




お店によっては部屋持ちの嬢の場合だけ、その嬢のセット方法に合わせられていましたが、このお店はそうではありませんでした。



私の場合は特に他の嬢とは違っていたので、出勤して個室に入るとまずセットを全部やり直していたんです。


私のセットの仕方を知っているボーイさんがセットしても、神経質な私は位置を直したり、向きを変えたりしていました。




それがある日を境に、やり直しの必要がまったくなくなったんです。


完璧に私のセットと同じ状態になっているんです。


試しに他の部屋も覗いてみたんですが、全ての部屋がキレイにセットされていました。



よくよく部屋の中を見回してみると、磨かれてピカピカ光るシャンデリア、キレイになった浴室のすみのカビ、磨き上げられたシャワーの蛇口、くぐり椅子や洗面器までキレイになっていました。



『そういえば、最近は朝来てすぐでもタイルがローションで滑ったりすることもないなぁ…』



思いつくところを全て見てみましたが、どこもかしこもピッカピカなんです。




帰り際、気になったので店長に聞いてみました。




店長「おう、お疲れ!」



ユキ「お疲れ様です!店長、なんか部屋がキレイになってるし、セットが今までと違うんだけど?」



店長「おっ、気づいたのお前が初めてだぞ!」



ユキ「あれ、どうしたんですか?」



店長「小山って新しいボーイがいるだろ?あれが全部やってるんだよ。」



ユキ「全部の部屋を一人で!?」



店長「これを見てみろ。」




そういって店長に手渡されたメモ用紙の束を覗いてみると、嬢の名前とセットのやり方が全て細かく書かれていたんです。




『ユキさん』


○号室


ベッド     枕はシーツの上、大タオルで巻いてその上に大タオルをかける。その2枚のみ。


床       ベッドの足元に大タオル1枚、縦に半分に折る。


テーブル   灰皿を中央。


浴室      イス、小タオル2枚。4つに畳む。


         浴槽の枕は2つに畳む。


足拭きマット マットを大タオルで包み、その上にもう一枚。





こんな感じに全ての嬢のセット方法が書いてありました。




店長「小山は毎日一番最初に出勤して、セットと掃除をしてるんだよ。」



ユキ「すごい………。」



店長「すごいよな、来月からあいつには朝のフロントを任せる。主任だな。」



ユキ「そうですよね、なかなかできることじゃないですもん。」



店長「小山はな、女の子が少しでも働きやすい環境にって考えてるんだよ。感謝しろよ。」



ユキ「はい、すごく嬉しいです。キレイになって気持ちいいですもん!」



店長「それにな、掃除してあっても気づかないような女にはなるなよ!誰が最初に気づくかと思って言われるまで待ってたんだぞ。」



ユキ「少し時間がかかっちゃいました…(汗)」



店長「普段は部屋が汚れてるってブーブー言ってる女も、キレイになっても気づきもしない。そんな女は客だって指名したくないもんだ。」




この店長にはすごくためになる話をいろいろ聞きました。


とても厳しくて口の悪い店長でしたが、今までで一番良い店長だったと思います。



小山さんはきっと、どんな仕事をしていても回りの人のことを考えられる人でしょうね。




店長も小山さんもですが、このお店ではとても良いスタッフに囲まれて仕事ができました。





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