元号 漢字組み合わせと頻度の遊び | == 肖蟲軒雑記 ==

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ツボに籠もっているタコが、「知っていても知らなくてもどっちでも良いけど、どちからというと知っていてもしょうもないこと」を書き散らすブログです

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今月の初めに漢字読みの遊びをしました。その際かなりの量のデータを集めましたので、もっと遊ばないと勿体ないと思い、今回は頻度と組み合わせの遊びをしました。

まずはクイズの解答です。


天授 永貞 興国 斉衡 武徳


の元号のうち、日本にないものは2番目の永貞と5番目の武徳です。ルールなのか、それともタマタマそうなっているのかは知りませんが、日本の元号では同じ漢字の組み合わせで前後を逆にした元号はありません。貞永という元号が鎌倉時代にあります。北条泰時が定めた法律「貞永式目(御成敗式目)」があることで、比較的目につきやすい元号と言えます。従って、これをひっくり返した永貞はないことになります。ちなみにこの永貞は、本場の中国では唐の時代にほんの数ヶ月だけ存在しています。
 中国では結構登場する武の字を含む元号ですが、なぜか日本ではほとんど使われず、唯一あるのはこれも結構有名な建武だけです。よって武徳はありません。ちなみに武徳は唐建国時の元号です。

残りの3つのうち、天授興国は南北朝時代、南朝で使われた元号です。そして斉衡は9世紀半ばの平安時代前半の元号です。


さて、最近の3つの元号(昭和、平成、令和)では、がそれぞれ初めて元号に使われた漢字です。初めてブームとも言えそうですが、これらは別の見方をすると歴史的には(今のところ)1回しか元号に使われていない漢字でもあります。

先のクイズで挙げた元号ではわざと1回しか使っていない漢字を含むものを出しました。授、興、国、斉、衡、はどれも上記元号でしか用いられていない漢字です。

文字の使用回数

1回しか使われていない字を以下古い順に列記しました(カッコ内はその元号)。

なお、音の組み合わせではないので、前回のデータに奈良時代の四文字元号を加え、代わりに、明や清を模倣して一世一元にした近代以降の新しい元号は省きました。なので文字の総数は496(= 238×2+5×4)です。

(白雉)(朱鳥)(和銅)(霊亀)(養老)(天平感宝)(天平勝宝)(天平宝字)(神護景雲)(大同)(嘉祥)(斉衡)(昌泰)(永祚)(天福)(嘉禎)(乾元)(元亨)(建武)(興国)(天授)(至徳)(嘉吉)
となります。(使用例数28回)

昭和での字が登場するまでは、最後に使われた1回限りはの字ということになります。

 

古い時代は白い雉が献上されたとか、銅が産出したとかいうようにイベントを記念した元号もあったということで、1回限りの字が多かったのかもしれません。景とか泰とか福とか、結構良い意味の字に思えるので、何回か使っていても良いようにも思えます。

2回は(慶雲と神護景雲)、(天平神護、神護景雲)です。(使用例数4回)

3回は古い順に、化、養、神、観、喜、中、政の7つ。(使用例数21回)
この中では大化でもっとも古いのは当然として、に注目しましょう。この字はが使われるまでは、初出がもっとも遅い字で、江戸時代に寛政で初めて用いられました。その後、文政、安政と2回使われています。

4回は寿の2つです。(使用例数8回)
寿は結構良い意味の字のように思えますが、平安時代末期の寿永を最後に使われなくなりました。は平安時代と江戸時代に2回ずつです。

5回はの2つです。(使用例数10回)
は戦国時代の大永を最後にずっと使われず、約400年ぶりに大正で用いられました。ちなみに大永年間というのは武田信玄や千利休といった有名どころが誕生した時期です。

6回はの1つだけ。(使用例数6回)
このの字は初出が南北朝期最後の明徳(北朝の元号)で、元号の字としては新しい部類に属します。

7回はの1つだけ。(使用例数7回)
大河ドラマでよく取り上げられる戦国時代(永禄、文禄)および赤穂事件の時代(元禄)が含まれます。

8回は弘、貞、享の3つです。(使用例数24回)
このうち、は平安時代の初め頃から弘仁貞観で使われ始めていますが、は室町時代の永享が初出で、明同様新しい部類の字と言えます。

9回は慶、久、建の3つです。(使用例数27回)
は平安時代に使われ始めた字ですが、鎌倉時代の承久を最後にプッツリと使われなくなりました。その後、640年近くのギャップを経て江戸末期に文久として久しぶりに使われた字です。
これに対してはとても面白く、最初の建久(鎌倉初期)から最後の建徳(南朝)まで、わずか180年の間にだけ使われた文字です。特に最初の5回(建久、建仁、建永、建暦、建保)は西暦1190年~1214年のわずか24年間です。この間改元は8回ですから、なんだか偏執的なこだわりを感じずにはいられません。

10回はです。(使用例数20回)
は古くは大宝から始まり、江戸時代後期の宝暦までまんべんなく出現しますが、は平安時代に使われ始めた後、室町時代の康正を最後に使われなくなりました。

11回はです。(使用例数11回)
天平に始まり平安時代に使われた後、南朝の正平を最後に使われなくなりました。そして、620年のギャップを経て平成として再登場したわけです。

12回はです。(使用例数12回)

室町時代の嘉吉を最後にずっと使われませんでしたが、江戸末期に嘉永として約400年ぶりに再登場しました。
13回は。(使用例数13回)有名な応仁を最後にこれも使われなくなりました。京都がメチャメチャになってしまった時の文字なのでもう使わないことにしたということでしょうか。もっともその割りにははその後も使われていますので、タマタマなのかもしれません。

14回は。(使用例数14回)平安時代に結構使われているのですが、と同じく鎌倉時代の承久を最後にプッツリと使われなくなり、再び登場するのは江戸時代前期の承応です(430年ぶり)。
朝廷にとって承久の字にはよっぽどトラウマがあったということかもしれません。

15回は寛、徳、保の3つです。(使用例数45回)
16回は延、暦の2つです。(使用例数32回)
17回は1つ。(使用例数17回)
18回は和、正の2つ。(使用例数36回)
19回は長、文の2つ。(使用例数38回)の字は鎌倉時代が始まる文治が初出で最後は江戸末期の文久が最後です。武士が政権を取っていた時代にのみ使われているのはちょっとした皮肉を感じてしまいます。

 

20回はの2つ。(使用例数40回)

 

この上がベスト3となり、27回の(使用例数54回)。そして29回のが最多です。

以上、文字数496で70種類の漢字が使われたことになります。

こうしてみると、近代以降の元号(明治、大正、昭和、平成、令和)というのは、治、正、和、平というわりにポピュラーな字を使う一方、頻度の少ない、比較的新しい、初出の昭、成、令と字の選び方はバランスが取れているとも言えそうです。

 

ついでに、他の候補として発表された5つを見ると、英弘、久化、広至、万和、万保では、が初出の字であるだけでなく、(8回)、(9回)、(3回)、(1回)、(4回)と、使用頻度のあまり多くない字を試みようとしているようにも見受けられます。


使用頻度の多い字の組み合わせは?

もっともポピュラーな(29回)は、「(良いことが)永く続くように」という言霊思想(?)に溢れた字です。以下トップ3にあるも「始まり」(元旦で使います)以外に「天地の気、万物を生じる気(現在では元気として意味が少し狭くなりました)」という良い意味があることから多用されたのでしょう。は言わずもがなで、天子、天皇とつながる漢字です。

 中国の元号をざっと見ると、始まりという意味の漢字ではが結構見られるのですが、日本の元号ではここまで見てきたように一度たりとも使われていません。もしかするとこれらの字は王朝交代を連想させるので嫌われたということなのかもしれません。

さて、これらの組み合わせはどのようになっているでしょうか。11回以上出現したものをポピュラーな字としてそれぞれ同士の組み合わせを調べてみました。



皆さんは、どのくらいの元号をご存知でしょうか?大河ドラマ『平清盛』でおなじみの保元とか平治や、戦国時代の元号である天正などは、どれもかなりポピュラーな字の組み合わせなのですね。

さてこうやって羅列してみて最初にわかったのは、についてはポピュラーな字との組み合わせがほとんど済んでいることです。どちらも11回出現のよりも多い字とは全ての組み合わせがありました。永平は結構良い組み合わせだと思うし、ずっと永平寺はそういう元号の時に建てられたとばかり思っていたので、ちょっと意外な気がしました。Wikipediaによれば、漢に仏教が伝わった時の元号として寺の名前にしたとのことです。「とこしえに平和」という意味では良さそうにも思えますが、今となってはお寺の名前になってしまっているので、登場することはないでしょう。平永も平成に語感が似ている上、近代になる前はなかったローマ字縛りもあるのでこの組み合わせは永久欠番(?)となりそうです。

平元もしくは元平というのもどこかにありそうな気もするので中国の元号をWikipediaで見たところ、元平が前漢昭帝時代に1回だけありました。日本でもありそうでしたがなかった元号です。

トップ3の組み合わせである、元永、天永、天元のうち天元がもっとも古く10世紀後半の6年間でした。元永天永は12世紀初め、鳥羽天皇の時代ですので大河ドラマ『平清盛」ではかすっています。もっとも、専門的に日本史に関わらないのであれば、どれもほとんど接することがないマイナーな元号と言えそうです。

もう一つのトップ3であるについては、との組み合わせこそ天平というメジャーな元号として知られていますが、との組み合わせがありませんでした。寛天などという元号であれば、ツルンと冷たくて美味しそうです。

和、嘉など1音の字同士の組み合わせはありませんでした。治和とか嘉治とか、発音してみて座りが悪いことおびただしいものがあります。

さて、元号が発表される前にという字が使われるかどうかが騒がれました。そのことの是非はともかく、あるテレビ番組で候補に挙げられたものを見ると、安久、安永などがトップになっていました。この番組制作者の意図がどのあたりにあるのかはわかりませんが、すでにある元号や字の組み合わせ(安久はありませんが久安は平安後期にあります)ぐらいは調べておくべきでしょう。どうせなら、この表のようなものを作って空いているところ、例えば寛安などを有力候補にした方がよかったのではないでしょうか。

そういう話はともかく、一世一元となってしまった元号。今後はデータの増加は遅々として進まないのはもちろんのこと、私自身にとっても、次の改元の時には命があるかどうか、命があってもこういう遊びができる体や精神の状態が保たれているかどうか微妙なお年頃です。この機会にできることはしておくというのも一興と、こういうおバカなことをしてしまいました。

もっと他に遊ぶ要素を思いつかれた方、ぜひともコメントをお寄せください。