だんだん秋が近づいてきたなぁ~。と思う瞬間は、鈴虫の鳴き声を聴いた時です。パリオリンピックのパラリンピック開催期間が8月28日(水)~9月8日(日)までの12日間との事です。
今回特に気になったのは、ミートローフです。私も、発祥などは知らないので興味深々です。
○ルーツはハンバーグと同じ古代ローマ?!
現代に私達が食べているミートローフに近い形が出来たのは中世、もしくは肉ひき機(ミンサー)が誕生した近代と考えられています。しかし、古い時代から肉を細切れにして料理に使うという方法は使用されており、ミートローフの原型と呼ばる料理も古代ローマから既に存在していたという声もあります。
その根拠となっているのは4世紀~5世紀頃に記されたという、古代ローマ(ローマ帝国)時代のレシピを集めた『Apicius(アピシウス/ラテン語: De re coquinaria)』という書籍。この『Apicius』の2巻目Sarcoptesはミンチ肉を使ったレシピを集めたものになっており、ソーセージなどのレシピも掲載されています。47番目のレシピとして登場する“Isicia Omentata”はおそらく細かくカットした豚肉を使用したレシピで、ミートローフの原型としても「ローマ時代のハンバーガー(※日本で言うハンバーグ)」とも称される存在。ラテン語がわからないので英訳版からですが…
[47] ALITER ISICIA OMENTATA
FINELY CUT PULP [of pork] IS GROUND WITH THE HEARTS OF WINTER WHEAT AND DILUTED WITH WINE. FLAVOR LIGHTLY WITH PEPPER AND BROTH AND IF YOU LIKE ADD A MODERATE QUANTITY OF [myrtle] BERRIES ALSO CRUSHED, AND AFTER YOU HAVE ADDED CRUSHED NUTS AND PEPPER SHAPE THE FORCEMEAT INTO SMALL ROLLS, WRAP THESE IN CAUL, FRY, AND SERVE WITH WINE GRAVY.
引用元:Project Gutenberg’s Cooking and Dining in Imperial Rome, by Apicius
となっており、筆者の怪しい英語力で大雑把に訳すと「細かく切った豚肉にワインを浸した小麦(パン?)を混ぜ、胡椒とブロス(だし汁)で下味をつけてマートルベリーを加えて挽く。砕いたナッツと胡椒を加えて小さいロール状にして大網膜に包んで加熱料理する」という感じでしょうか。ハンバーグともミートローフとも違う気はしますが、挽肉に具を練り込んだ“肉ダネ”を作って加熱するという感じは確かに原型と言えなくは無いのかな、と。
この『Apicius』は5世紀にまでには完成していたと推測されていますから、細かく刻んだ肉と繋ぎを練り合わせて加熱するという調理法は更に前から存在していたのでしょう。現在の挽肉というよりもさいの目切りに近い肉が使われていた・豚肉は使われていなかったなど様々な憶測が飛び交っていますが、時代や技術も考慮すれば“挽肉”と言って問題無いのではないでしょうか。日本でも木の実を砕いて固め直した「縄文ハンバーグ」なる食べ物が発掘されていますから、硬い部分・半端な部分を細く砕いて形を作り直そうというのは原始的な発想なのかもしれません・
中世に各地で独自の形へ
ローマ帝国で食されていた挽肉料理はヨーロッパ各地へと広がり、それぞれの地域で採れる野菜・フルーツ・ナッツ・調味料を使用するレシピが誕生していったと考えられます。こうした料理が広まり愛されたのは半端な野菜や傷んでしまいそうな食材を使いやすかった=残り物処理・節約レシピとして優秀だったからではないかという見解もあります。日本で言う雑炊・ごった煮的な感じでしょうかね。
ヨーロッパでは11世紀頃から十字軍遠征の関係もあり、それまではほとんど流通しなかった果物や香辛料が出回る時代へと入っていきます。ミンスパイやフルーツケーキなどと同様に、ミートローフ(の原型)も普段は家にある半端食材・クリスマスや収穫祭ではスパイスやドライフルーツを使ったものと使い分けられていた可能性もありそうですね。現在はドライフルーツと砂糖・香辛料が主体のミンスミートやミンスパイについても、中世の時点では牛ひき肉にこれらの具材を混ぜ合わせて作る保存食であったことが分かっています。
ミンスパイを伝統食としているのはイギリス文化圏、ミートローフ系の食べ物はドイツから東ヨーロッパにかけての地域・オランダから北ヨーロッパにかけての地域でよく食べられているようです。元は同じようなものだったのが、肉感とメインディッシュ感を強調したもの、保存性やフルーティーさを強調したものに分かれたのかもしれませんね。ともあれ、ドイツやオランダなどではミートローフが伝統食に数えられるほど親しまれてきた食べ物でした。アメリカにミートローフを伝えたのもこの二カ国から移住してきた人々であったと言われています。
アメリカへ渡り国民食になるまで
現在ミートローフ大好き国と世界に認識されているアメリカ。
そのアメリカへとミートローフが伝わり食べられるようになったのは17世紀頃、北アメリカ植民地化が本格的に進められた時期と推測されています。アメリカへと入植してきたオランダ人・ドイツ人達はそれぞれのコミュニティ内で自国で親しんできたミートローフ様の調理を食べていたのでしょう。現在アメリカで親しまれているミートローフの原型についてもオランダ・ドイツの食事がアメリカ流にアレンジされたものとされています。
現在食べられているミートローフに影響を与えた・前段階であると目されているのがペンシルバニア州発祥の「スクラップル(Scrapple)」という料理。スクラップルは豚ひき肉に小麦粉やコーンミール・スパイスを練り合わせて焼いたもので、薄っらいハンバーグとパテの間のような食感。17世紀頃ペンシルベニアにオランダもしくはドイツから入植した人々が、自国で食べていた“Pannhaas”もしくは“pan rabbit”というミートローフの一種をアレンジして作ったものとされています。
当時スクラップルが製造された背景には潰した豚の廃棄量と少なくし、出来る限り有効活用しようという目的があったとも伝えられています。ステーキ用の肉をカットしたあと骨から削り取った肉・使わない内臓などを煮込んだものをマッシュ状にしたものが使われていたようです。このため食品としてのランクはソーセージよりも更に下であると評する方もいらっしゃるほど。ソーセージやハンバーガーなども同じですが、一時期は「何が入っているかわからない肉」と挽き肉料理全般が警戒される傾向にあったため、17~18世紀の間は一部の人以外には普及しなかったそうです。
挽き肉に対する目が変わったのは19世紀、手回しの肉ひき機(ミンサー)が発明されて以降。19世紀後半になると家庭用ミンサーの販売が行われるようになり、企業は製品を宣伝するためのレシピ本の提供なども行いました。その努力の甲斐あってかアメリカでは家庭で作る食事にもひき肉が使用されるようになっていったのです。1800年代後半には当時ポピュラーなレシピ本だった『Boston Cooking-School Cook Book』にもパン粉と卵を使ったミートローフのレシピが登場し、19世紀末から20世紀初頭にかけての時期にはミートローフがアメリカで広まりつつあったことが分かっています。
ミートローフは大恐慌・第二次世界大戦で定番に
アメリカの家庭に徐々に浸透していたミートローフが爆発的に普及したのは1930年代、大恐慌と呼ばれる経済不況が起こったことがきっかけでした。お金が入ってこない・失業者が相次ぐような経済業況でアメリカの主婦たちが目を付けたのが、安価で売られている端肉と残りもので出来てしまうミートローフ。古くなったパンを粉にしたり、小麦粉やコーンミールなどの穀物粉を加えることで肉のカサ増しも出来ることから家計の味方としてミートローフは一気にアメリカの庶民層に広がっていきました。
更に世界恐慌の終焉と重なる1939年からは第二次世界大戦が勃発。家計に優しく栄養も補給できる料理としてミートローフはこの時も食卓によく登場していたそう。戦時中ミートローフは“Vitality Loaf”とも呼ばれ、良好な栄養状態でいざという時には戦争に参加できる様にと推奨されていたという逸話もあります。また、戦時配給規制が強化された1940年代に入ると『Your Share: How to Prepare Appetizing, Healthful Meals With Foods Available Today (意訳:今日用意できる食材で食欲をそそる健康的な食事を準備する方法)』というシュールなタイトルのレシピ本も発刊されており、その中では“Emergency steak”なんて名前でミートローフが登場しています。
世界恐慌から第二次世界大戦という食べたいものを手に入れられない可能性があった数十年間、この中で安く食べごたえがあり栄養も補給できる料理としてミートローフは家庭料理の定番としての地位を獲得したようです。戦争が終わった1950年代以降もミートローフは家庭料理として愛され、時には女性的なイメージやスキルを称賛するためのアイテムとしても使われたそう。日本で言うところの「肉じゃがが上手」みたいな感じですかね。90年代頃からはレストランなどでも高級バージョンのミートローフが登場するようになり、Comfort food(コンフォートフード)=心が安らぐような心地よい食べ物の一つとして注目されているようです。とwebサイトの+雑学
さんに記載されていました。(*^_^*)
(hope08)