シミルボン・2016年7月26日初投稿
 
私が『花とゆめ』を購読するようになったのは、1990年の高校1年生からだったが『ここはグリーン・ウッド』は小学生の時、友達と本屋で単行本を見かけて立ち読みし、始めは友達だけが買ってそれを借りて読んでいたのを、やがて、自分の小遣いで買い集めた作品。
 
主人公は蓮川一也。
一也は、苗字の「蓮川」から、「は」と「わ」をとって、「すかちゃん」と呼ばれている。
彼は、極度の不幸体質の持ち主。
中学3年生の時の、家庭教師だったすみれちゃんが初恋の相手。
でも、そのすみれちゃんは、すかちゃんの唯一の肉親、兄一弘(通称弘兄(ひろにい))の大学の後輩で、恋人だった。
すみれちゃんの大学卒業を機に、弘兄と結婚。
既に両親がなく、親戚もいないすかちゃんは、新婚の兄夫婦との同居を好まず、初恋の相手のすみれちゃんを忘れるため、今までの家から通学が可能だったが、学校の学生寮、緑林寮に入寮する。
 
すかちゃんが入学した高校、私立緑都学園は名門進学校であり、弘兄の母校でもある。
緑林寮に入寮したすかちゃんは、1年先輩の2年生の寮長ガキ大将タイプで寮生達の信頼が厚い池田光流(みつる)先輩と、生徒会長の学年成績トップ首席で入学した文武両道の手塚忍先輩、同室の女の子と見間違う、すかちゃんと同じ1年生の如月瞬、3年生で前寮長でバイクを担いで歩く古沢先輩、様々な個性的な仲間と出会い、寮生活、学校生活をおくる。
 
主に、緑林寮、通称『グリーン・ウッド』が舞台の漫画だが、学園祭、体育祭などの学校での出来事、主要登場人物の4人(すかちゃん、瞬、光流先輩、忍先輩)を主役にした話、他の寮生、すかちゃんや光流先輩や忍先輩が寮や学校を離れた街で遭遇した人から始まる話、旅先での話、番外編のファンタジー、SFの話など、話の種類は豊富。
継続しての連載ではなく、何回か、連載して休み、その間に別の作品を発表したり、再開までの間、那州先生が休んで充電されていたりの連載だったので、不定期連載の形になり、結果、多種多様な話が生まれたと思う。
 
私は、キャラクターでは、光流先輩と弘兄が好きで、特に好きな話は、花とゆめCOMICSの『ここはグリーン・ウッド』6巻に収録されている「蓮川家の一族」「蓮川家の一族・魔性の女」これは、主人公すかちゃんの家族、蓮川家の話。
すかちゃんが実家を出たのは、初恋の人が実兄に嫁ぎ実家が新婚家庭になってしまったのもあるが、弘兄に対する反発からが大きかった。
蓮川家は、弘兄が11歳の時に、父が死に、その後、弘兄は母親を助け、仕事をする母の代わりに弟のすかちゃんの面倒をみて、家事をしていた。
しかし、シングルマザーで働きすぎた母親は、弘兄が高校2年、すかちゃんが7歳の時に亡くなった。
それ以後、弘兄は大学でバイトをしながら、弟のすかちゃんを育ててきた。
弘兄も名門進学校緑都学園の卒業生で、優秀な人物なのだが大学を出て就いた職業が、母校緑都学園の保健医だった。
 
すかちゃんは、兄の弘兄が大好きで、尊敬をしていたのだが、大学に入りお調子者になり、保健医になった兄に失望して、大好きだった反動で大嫌いになってしまった。
それに加えて、初恋の人を奪っていってしまったので、すかちゃんの中で複雑な感情が出来てしまった。
また、義姉になったすみれちゃんは、すかちゃんの気持ちを知らず、可愛い義弟として接してくるので、すかちゃんの悩みは大きくなる一方。
 
ある日、蓮川兄弟のところに、すみれちゃんのいとこの神田が現れ、自分が留学中にすみれちゃんが結婚したことを許せず、すかちゃんの前で弘兄のことを酷評する。
 
「君たち兄弟は 身よりもないって いうじゃないか ご両親が 亡くなってから 一人で君を 育ててきたのは それは立派だと 思うさ けど 結局何かのときに 頼れるのは すーちゃん側の親類 だけだろ? 本人もあのとおりの うだつがあがらない 保健室の先生 そんなところへ すーちゃんみたいな人が 嫁にいって苦労する なんてどうかしてるよ」
 
弘兄のことをうだつが上がらないしがない保健医、君たちは頼る身内がいないそんなとこでは、すみれちゃんが不幸になると言い、君もすみれちゃんが初恋なら、離婚したほうが、君にもチャンスができていいだろう、とも言った。
その言葉に、涙を流して怒りをぶつけるすかちゃん。そこに、弘兄と光流先輩、忍先輩、瞬が来てすかちゃんを連れて帰る。
帰り道で泣きながら、すかちゃんは言う。
 
「……だから いったんだ…… 仕事とか…見た目とか すぐ見えるところで わかんなかったら おまえが どんな奴かなんて 他の奴には わかんないだぞっ…!!」
 
すかちゃんは、両親をなくしてから、自分を育ててくれた弘兄が好きだった。
勉強も出来て、家事も出来て、学校と家とで忙しいのに、バイトまでして自分を育ててくれた自慢の兄。
すかちゃんは、ずっと、弘兄のことが大好きで、そんな弘兄をみんなに褒めて欲しかった。
すごいって思って欲しかった。
それだけ、弘兄ことが大好きなのだ。
弘兄のことを褒めてくれたのは、家庭教師をしてくれていた、すみれちゃんだけだった。
家庭教師のすみれちゃんに、家のこと家族のこと弘兄のことを話した時、すみれちゃんは言った。
 
「ふぅん そぅかぁ… えらいのねえ 蓮川先輩って いいお兄ちゃんなんだねえ」
 
帰り道、泣いて弘兄に訴えた、すかちゃんの頭に、中学3年の時に家庭教師だった、すみれちゃんの言葉が思い起こされていた。
 
そうだ おれは ずっと みんなに 弘兄をほめてほしかったんだ━━…
 
すかちゃんの弘兄に対しての、思いの深さを知った話だった。
この時の、すかちゃんの「仕事とか、見た目とか、そういうすぐ見えるところで分からなかったら」で私は泣いた。
人って、どんなに中身が良くて、すごくても、見た目や職業で人を見てしまうことってあるんだなって、だから、そんな風に兄を馬鹿にされたくなかったんだなって、本当は、ずっと、すかちゃんは弘兄が好きだったんだと思って泣けた。
そして、すみれちゃんの優しさに気持ちが温かくなった。
 
他にも、古典の先生の話とか、光流先輩の話とか、忍先輩の話とか、瞬とその弟の話とか、古沢先輩の話とか、光流先輩と忍先輩が親友になったきっかけの話「雨宿り」など好きな話の多い。
『ここはグリーン・ウッド』最終回は、本誌で読んで単行本でも、読んだけど寂しかったな。
不定期連載だったから、また、いつか再開するんじゃないかなんて、思っていたこともあった。
それほど、私はこの作品が好きだった。
もちろん、今も。