シミルボン・2016年8月2日初投稿
 

『ポニーテール白書』は、水沢めぐみ先生の『りぼん』本誌での初連載作品。
『りぼん』を小2から購読していて、水沢めぐみ先生の読みきりを読んできた私は、水沢めぐみ先生の淡くて、優しい、作風が大好きだったので、水沢めぐみ先生の連載を楽しみに待っていた。
その初連載の『ポニーテール白書』は、その期待以上の作品となり、私の中で、大好きな漫画作品の一つのとなった。

主人公は、中学2年生の結(ゆい)。
話は、その結が、もう少し小さい時から始まる。
結が泣いて帰ってくると、母親が結に魔法をかける。
 

「ほら、ほら泣かないの」
「だって」
「ね、お母さんが魔法をかけてあげる。ちちんぷいぷい、ちちんぷい 結 お姫様になぁーれ」
 

 

母親は鏡の前で結をポニーテールにしてあげた。
それが母親が結にかけた魔法。
それからは、結の髪型はポニーテールが定番となった。
ある日、家族5人(結には兄と弟がいる)で、アルバムを見ていた時、結だけ赤ん坊の時の写真がないのに気づき、結は家族と言い争って、家を出て行ってしまった。
家を出て近所の川原にきた結は、剣道の素振りをしている、自分と同い年くらいの男の子と出会う。
それが結の初恋であり、結が剣道をするきっかけとなった。

中学2年となり親友のくーちゃん(本名栗田)と剣道部に所属していた結は、その男の子と再会し、男の子の名前を知る。
「郡司君」それが、その男の子の名前だった。
結の初恋と、結だけアルバムに赤ん坊の頃の写真がないことに隠された結の出生の秘密を含めて話が進行する。
登場人物は、結とその家族以外に、親友のくーちゃん、結と同じ血が流れているという、謎の白人アメリカ人の留学生フレディ、フレディの幼馴染ルビー、郡司君の従妹で郡司君を好きな結の恋敵の梓などが登場し、結の中学2年生から3年生までを描いた。

結の出生の秘密が分かった時の、家族の特に母親の結に対しての深い愛情と、自分が愛されていることを知った結の話のくだりはとても、切なく、これほどの優しさがあるのかと感じ入った。
また、死んだ後も、残された娘のために絵本を残していった結の本当の両親(結の現在の母の兄夫婦で絵本作家)の絵本に込めた思い。
また、結の明るさに勇気をもらったフレディの幼馴染ルビーの言葉。

 

私、ユイちゃん、好きよ。ユイちゃんって、いつも一生懸命ね だから 私も頑張ろうって思えるの。

 

それは、私の言葉を代弁してもらったように感じた。
『ポニーテール白書』が始まる以前からの水沢めぐみ先生の作品と本作でも感じる水沢めぐみ先生の作風は、押し付けがない、ふんわりとした優しさに満ちていて、また厳しさもあるけれども、それも弱者の心を上から押さえつける厳しさではなく、心の底にある他者への愛情から出ているものであり、優しさに包まれた雰囲気を作品全体に漂わせている。

ルビーはフレディが好きだが、フレディは結が好き。
結は郡司君が好き。
ルビーにとって、結は恋敵なのだが上記のルビーの言葉を、決して嫌味に私が受け留めなかったのは、その言葉を発したルビーの表情が、穏やかで優しく、ただ言葉だけのものではない、本心からの言葉だと分かるから。

中学3年生になった結は高校受験で、郡司君が大阪の高校を受験することを知り、離れ離れになることを知る。(結たちは東京に住んでいる)
その別れに、ショックを受ける結だが、その別れを受け入れ、ある行動にでる。
それは、一つの儀式であり、これまで結が元気になるために、頼っていた、母親からかけてもらった魔法と決別し、自分一人でも強く生きるため、郡司君との三年間の別れを受け入れ、再び会うまでの間に強くなろうとした決意の行動だった。

最終回の結と郡司君のキスの場面と、その時の結の心の中の台詞は、読んだ後に、一抹の悲しさと、これから先の二人に希望を感じさせ、とても印象に残った。
とても、淡く、優しい初恋の話であると同時に、家族の大切さ、血の繋がりなどに関して、血の繋がり以上のものを、押し付けがましくない、柔らかさで、しみじみと伝えてくれた優しい作品だった。
(主役の結だけでなく、親友のくーちゃんの剣道部の1年先輩の主将に対しての恋もさりげなく触れて丁寧に描かれていた)

初連載であり、完成度としては、連載作品として3作目になる『チャイム』の方が高いと思うが(私は、『チャイム』も好き)『ポニーテール白書』もとても素晴らしい。
りぼんマスコットコミックス全5巻は絶版となったが、文庫版で全3巻が出ている。
巻数は今から見れば少ないと感じる若い人もいると思うが、本誌連載中は人気連載漫画の1作であった。
短い巻数で見事に話が終結されている素晴らしい少女漫画である。
またこの作品は、私にとって思い出と共に大切な作品の一つとなっている。