シミルボン・2016年12月20日初投稿

 

198□年12月20日
――その日 世界中の人間が 同じ夢を見た
同じ…といっても 
表現が同じだった
わけではない
ある人にとっては 街の中
火山
海底
あるいは
宇宙…
…ただ 共通していたのは
何か 大きな災いが
おそいかかっていたということ
多くは夢を忘れ
覚えているものは
半数以下だった
――そして その夢に 人びとが関心を払いはじめるまでには
いくらかの時間が必要だった

 

人々はそれをRドリームと呼んだ。
Rドリームの中で人々を襲う災いを「ゼル」と呼んだ。
Rドリームは、人間とゼルとの戦場の世界だった。
主人公の北斗は美大浪人生。
彼は、Rドリームの存在を信じていなかった。
実は北斗はRドリームでの出来事を覚えていなかったのだ。
なぜ、北斗がRドリームでのことを覚えていないかということも、Rドリームを否定していた北斗が再びRドリームを体験していくことで判明する。

戦いの世界でありながら、世界中の人達と意識を共有できるRドリームに憧れた。
言葉の壁のないRドリームに憧れた。
ゼルは作品が連載が始まった1983年(昭和58年)の時代、自然破壊、環境問題を具体化させた存在なのだと思った。

Rドリームは心の世界。
多重人格者の場合、それぞれの心が肉体を伴ってRドリームに存在している。
人の心の闇が浮き彫りにされていくので、個人が自分でも気づかなかった心の奥底を見つめることになる。

人類が呼び込んだ地球の危機への警告のゼルとの戦い。
そんな大きな問題と共に、人それぞれの心、感情の問題にも向き合う。
意識の世界に国境も言葉の違いもない。

Rドリームで簡単に意思疎通が出来ていたのに、現実の世界では、Rドリームを通じて北斗が出会ったドイツ人のバロー博士、イギリス人のジャーナリストのルパートと現実世界では言葉が分からなかったのは、言葉の違いが大きな壁に感じた。

植物の意識も存在するRドリーム。
人間と自然の仲介役も存在する。
この作品のもう一人の主人公リュオンが持つ謎。
Rドリームは現実の体が起きると、その世界から出て行くが、リュオンは現実の世界に目覚めたことがない。

中には、リュオンのように目覚めない存在もいるのだが……。
次第に明らかになっていくリュオンの秘密。
北斗が覚えていなかったRドリームでの出来事。
それらが、次第に判明していく時に、地球上の全ての生き物が対峙しなければならない、地球という母星の運命が見えてくる。

現実を見ることで、Rドリームでの出来事をなかったことにしていく人々。
Rドリームでのゼルとの戦いは、現実に生きる人たちの問題でもあるのに。
その人達に、もう一度ゼルと戦うことを呼びかけていく北斗達。
北斗達の敵はゼルだけでなく、Rドリームを忘れて常識で判断する人間の考え方も敵だった。

自然環境破壊問題という大きなテーマを持ちながら、小さな人の心の奥に潜む深い暗闇も覗いていく。
全ての人の心に垣根がなく、大きく繋がっていることの楽しさも感じる。
北斗とリュオンに関わった人々の様々な思いと深さに圧倒されていく。

少コミプチフラワーコミックス全10巻という長期連載作品だが、最初に何気なく提示されていた始まりの謎、北斗が忘れていたこと、リュオンの謎、現実とRドリームで性別の違う人の謎などがしっかりと判明されていき、それが全て話に意味を持っている。
そして読み終えた後に、Rドリームが持つ意味の大きさを知る。

とても濃くて面白い佐々木淳子先生の人気代表作品。