シミルボン・2016年12月26日初投稿

 

『乙女ごころ夢ごころ』は1985年『りぼん』9月号に掲載された読み切り作品で、私が初めて読んだ柊あおい先生の作品です。
柊あおい先生の作品名は字面も語感も素敵です。
長すぎず、短すぎず印象的で忘れることが出来ない、綺麗な作品名をつけるセンスは抜群です。
『乙女ごころ夢ごころ』は夏祭りの縁日で、下駄の鼻緒が切れたヒロイン千帆が男性に鼻緒を直してもらう場面があるのですが、そこでヒロインがその時のことを、樋口一葉の『たけくらべ』みたい、と思うのです。

私はこの時に初めて、樋口一葉という作家の名前を知り、同時に『たけくらべ』を知りました。
当時、小学生だった私には樋口一葉という女流作家の作品で書かれた場面を即座に思いつく千帆に知性を感じました。
話も元気と明るさがありながらも、騒がしすぎず、賑やかだったのにヒロインの空間だけ静かに時が流れるように感じる画面は、メリハリがあって読んでいて、心に染み込んできました。

この読み切りから、3ヵ月後の1985年『りぼん』12月号から『星の瞳のシルエット』が始まるのですが、この始まりも情緒があって、私の中で柊あおい先生は文学的で情緒を持つ作品を描く先生だなっていう気持ちが固まっていきました。
ロマンチックに始まって、直ぐにヒロイン香澄の親友の真里子と沙樹に落とされるのですが。

『星の瞳のシルエット』のヒロイン香澄も頭の良い子で、『耳をすませば』の雫も本が好きな子だったので、私の中で、柊あおい先生のヒロインは知的という印象が強くあります。
私が知る限り、作品名の素敵さに負けない内容が作品にあり、読んだ後に人物の感情や置かれた立場、音の言葉で出せなかった内面の感情などを、フッと考えてしまうような余韻をそっと残していきます。

可愛らしい絵で楽しい場面がありながら、どこかしらほろ苦さと知性を感じさせるところが、柊あおい先生の作品の魅力の一つだと思います。