シミルボン・2017年1月2日初投稿

 

私が『ポーの一族』、萩尾望都先生の作品を読むきっかけになったのは、子どもの頃に好きだった『ときめきトゥナイト』の作者池野恋先生が萩尾望都先生のファンで、中でも『ポーの一族』を一番愛していたから。
池野恋先生が『ときめきトゥナイト』のヒロイン蘭世の父親望里(モーリ)を吸血鬼にしたのは、『ポーの一族』が好きだったからだそうです。
 

他に、川原泉先生も『笑う大天使』の中で、『ポーの一族』を絶賛されていて、私の中で大好きな漫画家の先生達が、また、池野恋先生、川原泉先生だけではなく、その後、多くの好きになっていった少女漫画家先生達が好きな心のバイブルとして、萩尾望都先生の『ポーの一族』を挙げていらしたので、とても、気になって気になって、いつか『ポーの一族』を読もうと決意して、19年ほど前に『ポーの一族』の文庫本全3巻を買いました。

美しい絵、最初はどのような背景がエドガーやメリーベルにあるのかは分からないけれども、読んでいくうちに少しずつ明らかになっていく、一族の宿命。
普通の人間達の生活に溶け込んで生きながらも、その特有の肉体があるために異物として排除されていく。
時間を越えて、時代を超えて、いつか出会った自分達よりも幼かった人間が老いていく姿を見ていくことになる。
この当たり前に老いていく人達を見ることで、時間の流れに置いていかれる姿が浮き彫りになって、エドガーやアランの途方もない孤独が伝わってきます。
 

おいでよ…… きみも おいでよ ひとりでは さびしすぎる……

 

こんな終わりのない永遠なんて、確かに一人ではさびしすぎる。
強い心を持つエドガー。
エドガーは永久の時間を生きる理由と存在を失っても、なお生き続けなければならなくなる。
いくら心の強いエドガーにとっても、それは辛く悲しいのだと、アランを求めたエドガーの言葉と瞳と差し出した手に込められているのが分かります。

多くは語らない。
かける言葉は短くても、そこへ至るまでの過去の出来事やそれに対して心が感じたことが、考えや行動、感情がアランのいる街で出会った人達との関わりあいから少しずつ垣間見ることで、エドガーやメリーベルが私が想像するずっと、ずっと長い時間を生きてきたことを想像することが出来るのです。

話を読んでいくと、その場しのぎの読者を驚かすためだけの設定や、印象的な場面や台詞ではなくて、しっかりとしたバックボーンがあって、その背景の土台があった上でのその特殊な世界に生きなければならなくなったエドガーやメリーベル、アランという人間の生の感情と行動があって、物語の中で人々が動いていることが分かります。
 

そして、その普通の人間の枠からはみ出てしまったエドガーやアランに関わった、普通の人間の醜い感情や恐怖もまた人の悲しさとして、心になんとも言えない悲しみを残します。
美しく妖しい、不思議で不可解な当たり前の時間の流れから外れてしまった一族の、さらにその一族の中からも外れてしまったエドガーとアランの寂しさが心から離れない、不思議な魅力のある作品です。

この独特の世界観、それでいて人間が持つ感情を細やかに描いた『ポーの一族』が多くの読者に影響を与え、萩尾望都先生と同じ少女漫画家となった先生達の中で、特別な作品としてあるというのも、『ポーの一族』を読むことで理解することが出来ました。
『ポーの一族』は時代を超えて、世代を超えて、その感性の豊かさに気持ちを奪われる印象に残る名作の一つだと思います。