私は今 山形へ向かう新幹線にいる

9号車8番に座っている

窓側に決まって座っている

遠い昔どこかで見たような懐かしい田園

その土手っ腹に細いアスファルトの車道が

2、3台の軽トラックを静かに滑らせている

幾度も幾度も窓が真っ暗になったかと思うと

瞬時にして不機嫌そうな私の顔が

その闇に映し出される

Ah Ah  Ah…

ため息つけばまた瞬時にして

今度は杉の木々たちの群れが

どんよりした曇り空に

おったちながら走っている いる いる

板屋峠と小さくし表示してあるトンネルの中へ

窓外右側古びた単線が突っ込まれている


車内眼鏡をかけた肌白い売り子が

かごにつまれた沢山のお土産品を押しながら

行ったり来たり行ったり来たりしてる


「米沢名物峠の力餅はいかがですか」

「仙台名物笹かまぼこはいかがですか」

誰も見向きもせず

それぞれにそれぞれの場所を見ている

Who am i? who am i ?who am i ?iam ai


前列まだ一切にも満たない赤子が

小さく泣いている

後部座席ひどく咳払いをしている中年の男

「すみません、お姉さんアイスクリームを下さい」

私は何故か列車に乗ると

昔からアイスクリームを食べるのが好きだ うんー


関根を過ぎた午後3時22分

水をいっぱい含んだ田んぼに広い曇り空と

幾本かの電線が見事に映ってる

ここでは只の田んぼが銀色をした鏡にかわる

赤錆たレールそこには黄色いペンキで

地図確認!とくとく書かれてあった

Who am i? who am i ?who am i ?iam ai


さて名もない河が走る

藁葺きの屋根が走る

ランドセルを背負った子供達が走る

春風と向こう側には高い山並みが長々と

でこぼこでこぼこ走る

コールタールを塗りたくられた

古い小さな家の壁

[富士ヨット学生服]という看板がかかってた

まるで空は幾枚もの切り絵のように

窓に映し出される

不釣り合いなクレーン車や工事中の高速道路

誰もが疑問を抱きながら走ってる

不安と苛立ちを抑えながら

前へ前へ前へ走っている

私はあと2時間もすれば

何千人もの前で

頸動脈がちぎれるほどの声で叫び歌うのだ AH

山形という街で…

Who am i? who am i ?who am i ?iam ai


家族と大きく描き出された

緞帳が切って落とされる

驚くほどの歓声と 私の名を連呼する

若者達を感動の真っ只中へ叩き込むのだ

左後部座席ではNECのサラリーマンだろうが

名刺交換をしている

かなり上役のようだ

私には全く訳の分からない話をしている

彼らにも家族があり

何かに不安と苛立ちを

感じながらたまたま同じ車両に

乗 り 合 わ せ て い  る

Who am i? who am i ?who am i ?iam ai

実にありがたいことだ


ふと首をぐるりと右へ回し

2、3度疲れをとり

何度目かの窓を見た

先程までの曇り空の隙間から少しだけ青が

のぞいてた

物干し竿に吊るされてる白い洗濯物がほら

ゆらゆらゆらゆら揺れてるが

そういえば

引っ越したばかりの私のうちには物干し竿がない

私の うちには 物干し竿がない

明日 買いに 行かなければ

Who am i? who am i ?who am i ?

Who am i? who am i ?who am i ?

ai am i