窓から見える景色はいつも一緒だった。


四畳半の部屋。

白い壁。

パイプベッド。


今は何月なんだろう。

今は何日なんだろう。

いつからここにいるんだろう。


そんな事さえ思い出せなかった。

でもそんな事さえどうでもいい事だった。


朝・昼・晩。


同じ時間に運ばれてくる食事。

質素な食事。

美味くも無い食事。


朝・昼・晩。


同じ時間にやってくる白衣で笑顔の人。

でも優しい口調。

でも優しくない眼。


外からガキが掛かった部屋。


この部屋はワタシの世界であり

ワタシの自由の範囲。


枕元には数冊の本。

読むと眠たくなるような活字の本。


退屈な毎日。

退屈な時間。


時々聞こえてくる声。


奇声。

泣き声。

笑い声。


「あの声はなんなの?」


前に鼻で笑って白衣の人に聞いた事があった。

彼は鼻で笑って「キミもああなる時があるんだよ」と答えた。


それからは聞こえても聞こえないフリをしている。


いつからここにいるんだろう。

いつまでここにいるんだろう。


でもそんな事さえどうでもよかった。

今は何も考えなくていい時間が心地よかった。










窓から見える景色。

今日はいつもと違った。


灰色の雲。

幾万辺の雪。


全ての屋根が真っ白だった。

全ての枯れ木には真っ白な花が咲いていた。


「まんずめんこい雪っ子だなぁ。」


閉じたまぶたには保育園の帰り

母と歩いたあの河原が映っていた。


真っ白に染まったあの小さな土手が映っていた。






窓を触る指先。

手の平は氷のように冷たかったのに

震える唇。

頬を伝う涙は熱かった。


「ねぇ。手紙書いてみようかな。」


今日、あの白衣の人が来たら

そう言ってみよう。


優しい口調。

優しくない眼。


でもワタシは精一杯の笑顔で

そう言ってみよう。


いつ付いたか覚えが無い顎の古傷。

少しだけ痛痒かった朝。

ワタシの心は真っ白だった。