小学生の頃 へんぴな空き地を どんどんどんどん歩いていくと

 ずっと向こうに 「パルナス」の工場が見えた。

 

 工場の壁の色は ピンクとも 薄紫とも あずき色とも ひとことで言えないような

 微妙な色をしていた。

 

 ケーキ工場なら 小学生が喜んで近寄って行きそうなものだが

 誰も近寄らなかった。

 

 グレーでもベージュでもなく、紫系の建物はいかにも「パルナス」らしかったが

 夕暮れにでもなると その風景は 何だか少し不気味な感じさえした。

 

 原っぱでもなく、荒れ地、ほどではないが 本当にへんぴな空き地だったからかも

 しれない。

 

 だけど一番の原因は あの、コマーシャルソングにあると思う。

   「パルナス、パルナス、モスクワ の味 パルナス パルナス パルナース」と

 いう歌だ。

 嫌いというわけではなく、むしろ好きだったのかも知れないが、淋しくて、不安になる

 ようなメロディは 夕暮れのパルナス工場と重なって すこし怖かった。

 

 パルナスの看板商品は「ピロシキ」だったから、「モスクワの味」というのが

 ピロシキを指すのか ケーキを指すのか 当時から疑問だった。

 

 パルナスのケーキの味は 憶えていない。

 ピロシキは当時は好きだったのかもしれないが、大きくなるにつれ、油っこく感じた。

 

 今はもう「パルナス」は ないが いまだに問いたい。

   「モスクワの味って何?」