注意。文中の*はモバでの改ページです。
わざと消しませんでした。
幼い頃は、母と二人だった。
今にも崩れそうなほどボロいアパートで、俺たちは暮していた。
俺の母のイメージは、
優しい笑顔とか
暖かい腕の中とか
美味しいご飯とか
…そんな普通の子供が感じられる様な
心地良い物は一つもなく、
酒を飲んでは幼い俺を殴り、
口汚く罵る記憶しかない。
そしてたくさんの血、薬、傷。
俺を傷つけるためだけの言葉。
『あんたさぇいなければ』
『お前さえ出来なければ』
毎日の様にヒステリックに泣き叫んでは、あまりの様子に隣人が止めに入る。
母の苦しみなんて理解出来なかったあの頃の俺には、母は畏怖の対象でしかなかった。
怖かった
痛かった
大嫌いだった
……淋しかった
*
『母子家庭』という事でほぼ費用が掛からないことから、母にとって邪魔な俺は保育園に預けられた。
実際には離婚などしていなかったのだから、どんな手続きを取ったのかは、社会の仕組みが少しだけ分かっている今になって考えてみればおかしな話なのだけれど。
それでも、殴られることのない、ひと時だけは手に入れられた。
安穏に見えた生活は俺の寂しさを浮き彫りにさせた。
周りは…みんな優しい笑顔と暖かい手にその小さな手を包まれ帰っていく。
まともに迎えに来てもらった事なんてなかった。
早く家に帰る事さえ、男がいる時には拒絶された。
俺に暴言を吐いた直後に、甘い声で男に擦り寄っていく母に愕然とした。
ただ涙をこらえ、ボロいアパートの階段の下で
夜に仕事に出て行く母と男がいなくなるのを待っていた。
*
日常を闇に覆われた生活を送っていた俺に差し伸べられたのは、小さな手。
『虎狼ちゃん』
笑って差し出されるその暖かい手は、俺を暗闇から救い出してくれた。
『一緒に帰ろうよ』
『月華…ちゃん』
同じ組で優しい月華ちゃんは、笑って言った。
教室の片隅で顔を伏せて座り込む俺の手をギュッと握る。
『今日から、晩ご飯月華のお家で一緒に食べよう。パパとママとお兄ちゃんと虎狼ちゃんとで』
照れくさそうに彼女は笑う。
『一緒に帰ろうね』
*
真っ暗で、星も見えない様な暗黒の世界から俺をひっぱりだしてくれたその小さな手は
いつも俺を安堵させた。
母には呼ばれない俺の名前を呼んで、
暖かなぬくもりで俺を包み、
明るい笑顔で俺を引き付けて離さなかった。
拒絶される事が怖くて、自分から手を伸ばす事は出来なかったけど。
差し出されたその手は、彼女から離される事はなかった。
生まれて初めて「好き」をくれた彼女は、
こんなに汚れた今の俺の中にさえ、
綺麗な気持ちと一緒に残っている。
*
お別れの日
幼い俺は
ただの独占欲から
彼女にキスをした。
そして、夢を語る様な口約束。
彼女は笑って頷いてくれた。
『約束だよ』
って彼女が小指を出し、自分の指を絡ませる。
本当になりますように…
そう祈りながら。
*
人の闇に触れる度に、自分を失った。
一瞬の快楽に溺れ、人を傷つけた。
今の親友に殴られ、
問い詰められた時
「お前を愛してくれる奴がいるから」
そう泣いた親友を見て、
閉じ込めていたぬくもりを思い出した。
唯一…綺麗な思い出の
…君を想う。
可愛い君は、
きっと今頃は愛しい男の腕にいるかもしれない。
でもいつか会った時は、
ちょっとはカッコ良くなったね
そう言って俺を好きでいてくれた昔を誇って欲しい。
そう願ったんだ
*
1章へ続く→