常識なんて5年も経たない内に非常識になる

タラララララ～ン
タラララランッ♪

入ったコンビニに来店を知らせるメロディーが鳴った。

店員は作業をしながら見向きもせずボソッと呟く。

「いらっしゃいませ～こんばんは～」

僕は当たり前のように、その挨拶を無視して雑誌コーナーへ向かう。

バイト先でも家でも学校でも「礼儀」をちゃんとしろと教えられて来たのに、店に入る時なぜ僕は挨拶をしないんだろう。

きっともし僕が「こんばんは」と言い返したら、店員が変な顔で見返して来るからだろうな。

だってバイトの女子高生らしき彼女は「店員Ａ」をただ演じている。
記号化した彼女の、「こんばんわ」というマニュアル通りの記号に反応する事は、現代じゃ非常識。

だから僕も大手チェーン店では当たり前のように「客Ａ」を演じる。
。
コミュニケーションは必要ない。

商品とお金が交換されるだけの場で、言葉の交換まではしなくていい。

でもこの体の奥にある違和感は何だろう。
何か気持ち悪い。

最初は恥ずかしいだろうけど、明日から挨拶を返してみたいと思ってる。

だってもしかしたら5年後、コンビニで挨拶しない方が非常識になってるかもしれない。

だって、5年前街中や喫茶店でタバコを吸っている人間が、5年後には老若男女からにらまれるなんて、多くの人は想像していなかったように、
きっと、常識なんて5年も経たない内に非常識になる。

明日から、
大手のチェーン店に入る度、一人でドキドキしてるだろうな。

ドキドキドキ～
ドキドキドッ♪

来店用のチャイムも心臓音に聞えたりして。

～桜井モトヤ～