路の上に転がっていたのは

2009年、記念すべき第一回目の路上ライブだから、
俺は張り切りすぎて開始時間の15分前に現地に到着した。

やはり誰もいない。

一人でネオンがチカチカしている都会のど真ん中に荷物を置いて、しゃがみ込み、目をつぶり時間が過ぎるのをしばし待った。

時折訪れる、都会には不似合いな静寂が、一瞬自分のいる場所を混乱させる。

そんな瞬間を切り裂くパトカーの音やクラクションの音、酒の入った学生やサラリーマン達の歓声。

あっと言う間に予定時刻の5分前。

ひろむが到着する。

それにつられて去年の路上で御馴染みになった顔が続々と詰め掛けてきてくれた。

思えば、去年の４月２６日、
上京してきて初めて路上ライブをし、そこから数ヶ月間、路上では大半の時間を俺とひろむの２人きりで過ごした。
始める時も終わる時も殆どが二人きりだった。

この場所じゃお客さん止まりにくいかもな、
この時間帯はやっぱり皆足早やしもっと曜日と時間帯考えようか、
もっと目立つ看板作らんと他のミュージシャンと差別化はかれへんな･･･。

今までステージだった場所がライブ後の午後11時頃からは、
反省会をする楽屋になっていた。

そして昨日、
準備をし終えギターを抱え、ひろむの準備が終わった事を確認し、マイクの前に立ち、第一声を出そうと目を見開いた時、目の前には１５人程のお客さんがいてくれた。

感動とか、嬉しさとか、有難さとか、沢山の感情が一気に押し寄せると人は、至って冷静になれるんだと気付いた。

そのまま、緊張もせず2009年路上一曲目｢靴飛ばし｣を歌い始めた。

すると去年の夏、親に駄々をこねるオモチャコーナーの子供のように、路上ライブをしたくないと言った事を少し思い出してしまった。

帰路を急ぐ人達に何とか足を止めて一曲でも聴いて欲しい、
という俺の必死の想いとは裏腹に、お客さんが一人もいないままワンステージを歌い切った日、帰り道の丸の内線の車内で俺は何度も何度もため息をこぼした。
｢靴飛ばし｣という自分が書いた曲がまるで過去の自分からの応援歌のようだったから、苦笑いを何度もかみ殺した。

｢独学で覚えた言い訳、並べられるだけ並べては足踏みをしてしまうよ｣

もうこれ以上言い訳はないってぐらい吊革に全体重をあずけながら、自分を励ました。

満員電車で大きな荷物を持ってギターを抱えている自分を、周りの人以上に邪魔に思えた。
そんな気持ちのまま決まっていたスケジュール通り、二日後も路上へ出かけた。
そして警備の方に注意され一曲しか歌えなかった。

心が折れる音ははっきりと聞える事に気付いた夜だった。
もう路の上に立つ事を本気で嫌がった。

でももう、一人のわがままや好き嫌いだけで唄を歌っている立場ではなかった。
ひろむがいて、事務所の多くの方が周りにはいて、上京するにあたり家族や友人達に涙と共に追い風を送って貰って、ここにやって来たのだ。

だから、こんな事で悔し涙を出す自分が許せなかった。

自宅の前に着いた時潤んだ目の自分の頬をグーで思いっきり殴った。

一曲目｢靴飛ばし｣を歌い終えた時、
沢山の方達の拍手が2人を包んでくれたから、
あの夜の出来事が、何だか笑い話に思えた。

昨日は、綺麗に歌えなかった。
けど、綺麗に2人の想いが都会の夜空に充満していった、気がした。

午後10時、アンプとテーブルとマイクスタンドを何も言わずに一緒に片付けてくれる沢山のお客さん。

全ての後片付けを終え、今までのステージだった場所を振り返ったら、
何か落ちていたから、俺はしゃがんで道端に手を伸ばした。

そして少しの間俺はそれを見ていた。

｢何してるんですか？｣

2人の帰り仕度が終わるまで待ってくれていた10人近くの中の1人が尋ねてきた。

｢これ、そこに落ちててん。
去年の11月にここで路上ライブした時以来探してたピック。｣

｢ええ～！嘘でしょ～！｣

｢うん、･･･嘘。｣

｢なぁんだ～ずっとそこにあるはずないですもんね～｣

｢んじゃ帰ろうか。｣

ひろむの掛け声に駅へ向かいだす一行。

俺は拾ったそれをポケットに入れて歩き始めた。

路の上に転がっていた
今落ちてきたばかりの桜の花びらをポケットに入れて。

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｢上京一周年記念メモリアルイベント｣
４月２５日、１stシングル｢ハナウタ｣の発売日でもあり、上京後初のライブをした日から丁度３６５日目を迎えます。

沢山の想いをびっしり詰め込んだ
｢３６５歩のエイプリル｣

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