(5)

第二、第三の雷撃隊隊が、次々に現れて攻撃にかかる。深手を負ったウエールズは、見る見る傾き始めた。四十五度まで傾いて、あわや沈むと思ふとたん、ふしぎにもむくむくと起き直った。さすがに、不沈をほこるだけのねばりがあると思はせる。レパルズは速力がぐっと落ちてウエールズの後方、二千五百メートルの海上にある。艦はすでに火災を起こしてゐたが、砲火はほとんど衰へない。襲ひかかるわが一機が、火だるまになる。その自爆と同時に魚雷がレパルズに命中する。続いてまた一機、これも自爆と命中といつしょである。それを見るたび、「おのれ」と、一時に怒りがこみあげる。しかし、それも直ちに消えて「ああ、りっぱだ。りっぱな最後だ」といふ感じに変わる。直立して、この勇士に別れを告げた。

高角砲の目もくらむやうな光の中で、れぱるズの水兵が甲板に倒れている姿が、はっきり見えた。わが爆撃機隊の掃射を避けるやうに右手で顔をおほっている兵もあった。大きくめぐってふり返ると、やがてレパルズの最後が来た。一つ大きくゆれたと見る瞬間、もくもくと黒煙を残しただけで、海中に沈没した。「やったぞ。やったぞ。二蕃機が、レパルズが沈んだぞ」 機内総立ちになり「萬歳」を連呼する。この歓喜を胸いっぱいに抱きながら、我われわれ爆撃機隊はひきあげて行った。

(6)

わが偵察機は、なほも大良をめぐりながら、旗艦ウエールズの最後を見とどけた。プリンス・オブ・ウエルズは、中央と艦尾から煙を吐きながら八ノットぐらゐの速力で走ってゐた。船体は、ぐっと左へ傾いている。そのすぐ後から、駆逐艦がついて行く。まもなくウエールズの速力は急に落ちて、ほとんど停止したかと思はれた。駆逐艦が寄りそふやうに、傾いたウエールズにぴたりと横着けになった。そのとたん、ウエールズから爆発の一大音響が起き、火焔が太く、大きく立ち上がった。続いてもう一度爆発するとともに不沈艦は、艦尾からするするととマライの海へのまれて行った。あたり一面の海に、南の大陽がきらきらと光っていた。

(7)

基地へ帰ると、司令官は泣いている。大任を果したわれわれ搭乗員も泣いた。地上勤務の者もなきながら走り寄って、われわれの手をにぎった。押さえきれないあらしのやうな感動が、全員の胸を走りまはるのであった。それから三日め、われわれの一隊は、もう一度あの戦場の上空を飛んだ。眞下には、何事もなかったやうに、青い波頭が輝いてゐた。この波頭へ向けて、大きな花束を落とした。「敵ながら、最後まで戦ひぬいた数千の霊よ。静かに眠れ」といふ。われわれの心やりであった。