気がつくと、由依は椅子に体を縄で固定されていました。
何度も体を揺らしてみるも、少女の力ではびくともしません。
由依が途方に暮れていると、前の方で扉が開く音がしました。
『傷綺麗に治ったね。これでもう完璧かな』
「その声は…守屋先生?」
『そうだよ。おいで、理佐』
「理佐?」
暗闇から4つの赤い点が現れました。
『理佐、いきなり見せちゃダメじゃない』
(いいんです。由依はわかってくれるはずですから)
由依は、訳がわからないまま赤い点を見つめていました。
(由依。じゃあそこの窓の前に行くね…びっくりしないで欲しい)
少しずつ近づいてくる赤い点に、ゴクリと由依の喉が鳴りました。
そして窓から入る月明かりに照らされた理佐は…
とても人とは言えない形をしていました。
4つの赤い点は額にある目でした。
上半身は人間の形をしていましたが、下半身は蜘蛛の腹のようなものが上半身につき、そこから足が6本生えていました。
高さは男性を優に越すでしょう。
由依は理佐の姿に唖然としていました。
忌み嫌っていたから蜘蛛人間が目の前に現れたのです。しかも、大好きだった理佐という最悪の形で。
逃げようと思い、体を動かそうとするも縛られているため、椅子ごと倒れてしまいました。
蜘蛛人間の方を見やると、いつもの理佐が立っていました。
泣きそうな目でこちらを見ていました。
『はい、2人ともそこまで。じゃあ儀式の続きするよ』
そう言って先生は由依の目の前に意識を失った少女を引きずってきました。
由依の目の前で微かに息をしています。
「…おいしそう」
2人は驚きました。
こんなに早く蜘蛛人間としての自我が覚醒するとは思ってもいなかったからです。
2人は思わず身震いをして目を合わせました。
すると、ポタ、と音がしました。
由依を見ると、口から涎を垂らしていました。
少女を見る目は、おやつを前にしている犬のように輝いていました。
「食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい」
怖いほどに、由依は欲に忠実でした。
やがてみしみしという音とともに椅子が壊れ始めました。
由依は生身のまま椅子を壊し、少女を食べ始めました。
『…金の糸が生まれた』
(金の糸?)
『理佐には言ってなかったけ?蜘蛛人間には金の糸と呼ばれる変異種がたまに生まれるの。金の糸は姿を変えず私たち以上の力を出せるの』
(それが由依に?)
〔そうです〕
(…?誰ですか?)
『ゆっかー!』
(ゆっかー?)
〔はじめまして、理佐ちゃん。私は菅井友香、蜘蛛人間よ。さらに言うと金の糸〕
(由依と一緒だ)
〔あかねんから色々聞いたでしょ?その知識で由依ちゃんを導いてあげて。由依ちゃんの場合、少し意識が幼体化していると思うから。大丈夫、蜘蛛神様が見ててくれるから〕
それだけ言って、友香さんは先生を連れて消えました。
由依は食べ終わると、仕切りに鼻を鳴らしていました。
(由依、どうしたの?)
「りしゃ?お腹が空いたの」
体や見た目は変わらないのに、舌足らずなところや甘えん坊になったことを理佐は愛おしく思いました。
(じゃあ一緒に探しに行こっか)
「うん!」
ここまでが事件の全てです。
結局、由依のお腹が満たされたのは村全員がいなくなった頃でした。
守屋先生は友香さんに、理佐は守屋先生に、由依は理佐に…こうして、蜘蛛人間は身近な人から伝染していくのです。
2人によって隣の村が消えたことはまた別の話です。
ところで、私は誰だと思いますか?
この事件を全て見ることができたのは1人しかいません。
私は今老婆の姿をしています。
そして先程子供に蜘蛛人間の話を聞かさせました。
友香さんはどうやって蜘蛛人間になったのでしょうか。
まだまだ謎は多いですね。
そして、緑茶というものは美味しい。
人間の暮らしもいいものですね。